サイ・スミス What'll I do
JAZZ Vocal 2
2013年05月19日
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サイ・スミスという女性ヴォーカルがあまりに素晴らしいので通常のCD紹介という枠でなくYouTubeピックアップという形で紹介したいと思います。というか、備忘録として書き留めておきたいという衝動を抑えることができないと言った方が正確ですね。サイ・スミスはR&Bでもネオソウル系の気鋭の才能。この動画はポーランドでのライブで、クリス・ボッティのツアーに参加した2009年のものです。彼女の歌声にまず聞き惚れてしまいます。プリリアントでシャープな声とリズム感が凄い凄過ぎる。ライブらしく自由奔放な雰囲気が最高で、ボッティのペットも異様に盛り上がっていて、バックのピアノがまた美しいです。この動画、何度も繰り返して見てしまいます。最上の音楽を聴く歓びに打ち震えます。即興音楽の醍醐味ってやつですね。これぞジャズ。
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こちらも2009年のポーランドでのライブから同曲の別演奏。
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こちらも2009年のポーランドでのライブからThe Look of Love。
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こちらは同じくクリス・ボッティとの2008年のボストンでのライブ映像。The Look of Love。以前にもピックアップしたことのある映像です。彼女の切れのある歌声と独特のリズム感覚が新鮮です。サイ・スミスはジャズ・ヴォーカリストではないので少し違和感あるものの否応無くはみ出でくる遊びの部分は十分にジャズ・センスが感じられます。あの声を振るわすように強弱をつける歌い回しには魅力を感じます。
関連エントリはこちら。
→クリス・ボッティ/クリス・ボッティ・イン・ボストン
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投稿者 Jazz Blogger T : 23:07
シャーリー・ホーン/ヒアーズ・トゥー・ライフ
JAZZ Vocal 2
2013年05月04日
Shirley Horn / Here's to Life
ジャズ・ヴォーカルが好きなので機会あれば自分にとって新しいものをいろいろ聴いているんですが、シャーリー・ホーンの本アルバムは久しぶりにいたく感動させてもらった素晴らしい内容の作品です。バラード中心の選曲でいずれも内省的で諦観と慈悲に満ちた心深く突き刺さる音楽なのです。パーソネルは、シャーリー・ホーン(vo)、ジョニー・マンデル(arr)、チャールズ・アルブス(b)、スティーブ・ウィリアムス(ds)、ウィントン・マルサリス(tp)、アラン・ブロードベント(p)他。1992年。Verve。
シャーリー・ホーン(1934-2005)は、マイルス・デイビスにその才能を認められてメジャーになったという経緯があり、1960年頃とのことだからかなり遅咲きということになります。本作は1992年に亡くなったそんなマイルスに捧げられています。
ジョニー・マンンデルのアレンジと指揮の下、オーケストラをバックにスローバラッドが集められています。11曲いずれもデリケートで深遠で格別の雰囲気があります。この作品でジョニー・マンンデルはグラミー賞の「ベスト・インストルメンタル・アレンジメント・ボーカル」を受賞。
1曲目はシャーリー・ホーンの代名詞にもなったような有名曲。この演奏だけでなく、他の曲も本当に素晴らしい出来です。夜アルコールを共にゆっくり親しむべき音楽でしょう。かなり重いです。確実に心が動かされます。
ウィントン・マルサリスが4曲目と9曲目の2曲で参加。元はマイルス・デイビスが参加することになっていたが突然の死によってマルサリスに変更されたとのこと。
1. Here's To Life
2. Come A Little Closer/Wild Is The Wind
3. How Am I To Know ?
4. A Time For Love
5. Where Do You Start?
6. You're Nearer
7. Return To Paradise
8. Isn't It A Pity?
9. Quietly There
10. If You Love Me
11. Summer (Estate)
Shirley Horn (vo), Johnny Mandel (arr), Charles Ables (b), Steve Williams (ds), Wynton Marsalis(tp). 1992.
動画を掲載しておきます。1993年のライブからHere's To Life。ジョン・ウィリアムス指揮ボストンポップスオーケストラをバックに、CDと非常に似た雰囲気の演奏になっています。静かにしっとりしたホーンの歌声とバックの美しいオーケストレーションが印象的。
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詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Shirley Horn / Here's to Life
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:03
スペース・ジャズ・トリオ/メリディス
JAZZ Piano 4
2013年05月03日
Space Jazz Trio / Meridies
エンリコ・ピエラヌンツィが80年代に率いていたスペース・ジャズ・トリオ7枚のうちの1枚。ピエラヌンツィが最も乗っていた時期の演奏で、メロディアスで淀みなく流麗なインプロヴィゼーションにはエヴァンス派を超越した個性が光輝いています。数曲でピアノとスキャットのユニゾンが試みられているのも興趣あり。3者の一体感もハイレベル。パーソネルは、エンリコ・ピエラヌンツィ(p)、エンツォ・ピエトロパオリ(b)、ファブリツィオ・スファリ(ds)。1988年1月Rome録音。Gala Records。
エンリコ・ピエラヌンツィ(1949~)の80〜90年代の演奏がやはり気になります。本作はまさに絶好調の彼のピアノの演奏が記録されていると言えましょう。創造性豊かな美しいパッセージが次々と織りなされる流麗なアドリブ・ラインは彼の比類ない才能であり、そのピアニスティックな美をよく捉えた本作は非常に高品質なピアノ・トリオ作品です。
いくつか驚きがあるのですが、一つは、3曲目Some Other Timeの美しさです。何百何千というたくさんのピアノ・ジャズを聴いて来た自分ですが、その中でも5本の指に入るくらいに素敵な演奏と思っています。地中海の明るく温和な陽射しの下で、楽天的で快楽主義的なイタリア人ピアニストが、ジャズという知的な音楽として腕を振るって料理した最高のアンティパスト。
軽快でありながら透徹した美意識がさらりと一筆書きのような儚さで表現されています。4分43秒と意外と長いながらその長さを全く感じさせない潔い演奏です。長めのバースの後に主題が始まってその可憐なメロディが上昇を続けて最高音に達するまでの30秒ほどにエクスタシーがあります。
クラシックの作曲家スクリャービンの「アルバムの綴り Op45-1」や、アントニオ・カルロス・ジョビンの「Anos Dourados(黄金の歳月)」らの佳曲に通じる、一つの印象深い美しい主題メロディで勝負する曲ですね。
もう一つの驚きは、ピエラヌンツィのピアノとスキャットによるユニゾン演奏です。4, 5曲目の2曲で披露されています。楽器とスキャットのユニゾンは、ライオネル・ハンプトンの名盤「スターダスト」(47年)でのベースのスラム・スチュアートが著名ですが、ピアノとのユニゾンを聴いたのはこれが初めてでした。それだけでなく、速弾きのピアノとスキャットが完全に一致している点は、さすがにプロとは言え驚嘆しました。
アドリブ・ラインを頭の中で構築しながら弾いているのが明らかです。私はこうした速いアドリブはある程度は指任せなのかなと勝手に思っていたのですが、実際はそうではなくて、ピアニストが頭で想定して選択した音を確実に鳴らしているのだということです。そうでないと、指で弾く音と声で出す音の音階や長さを完全に一致させることはできません。
スタンダードのTenderlyが4曲目ではユニゾンで、最後の10曲目では普通のピアノのみで演奏されているので同じ曲が異なった演奏として聴けるのも面白い趣向です。とにかく、この4曲目のユニゾン演奏は聴いてみる価値があると思います。ピエラヌンツィの声質が意外にも二枚目美青年の雰囲気なのも二度びっくりです。生声に意表をつかれたビル・エヴァンスの時ほどではありませんが。
ピアノ・トリオ演奏では、通常、スローテンポのバラッド演奏が聞きどころやクライマックスになるものですが、本作でのピエラヌンツィはむしろミディアムテンポやアップテンポでの流麗な音の流れが心地良く、転がるようなピアノの音列がクセになるというか、ジャズのまた違った魅力に開眼させられるのですね。エヴァンス派の一人と目されるピエラヌンツィの個性がエヴァンスの呪縛から逸脱しているという印象を抱かせる、そうした新しい体験というか境地になるものです。
1. Filigrane
2. Altrove
3. Some Other Time
4. Tenderly
5. What Is This Thing Called Love
6. Meridies
7. Blues Per Enzo
8. I Should Care
9. Echi
10. Tenderly Instr.
Enrico Pieranunzi(p), Enzo Pietropaoli(b), Fabrizio Sferra(ds). Recorded at Sonic Studios, Rome,1988.
詳しくはアマゾンでどうぞ。→Space Jazz Trio / Meridies
関連エントリはこちらから。
→エンリコ・ピエラヌンツィ/バラード
→エンリコ・ピエラヌンティ/ナイト・ゴーン・バイ
→エンリコ・ピエラヌンティ/プレイ・モリコーネ
→エンリコ・ピエラヌンティ/New Lands
→ホロヴィッツ/スクリャービン・アルバム
→アントニオ・カルロス・ジョビン/リオ・リヴィジテド
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:21
ジョン・コルトレーン/プレイズ・ブルース
JAZZ Sax 3
2012年08月11日
John Coltrane / Coltrane Plays the Blues
ジョン・コルトレーンの真摯なジャズを聞いてみたいと思う時、私の場合は57年から62年くらいの作品群がその中心になります。本作はその意味で目的に適う最適な一枚。メイン・ストリーム・ジャズらしい堂々と安定したサックス演奏に思わずにんまりさせられます。愛聴盤としていつも座右に置いておきたい渋い作品。パーソネルは、ジョン・コルトレーン (ts)、マッコイ・タイナー (p)、スティーブ・デイヴィス (b)、エルヴィン・ジョーンズ (ds)。1960年10月NYC録音。Atlantic。
コルトレーンのジャズには独特の魅力があるのですが、個人的には50年代後半から60年代初頭のテナー奏者としての自己を確立し、クリエイターとしての音楽性をこれから模索していこうとする時期が好みになります。先端を走る自信と意欲に満ちていること、アフリカ音楽を取り入れた創造性や斬新性、ソプラノ・サックスの新しい試みなど、一人の演奏者から音楽クリエイターへの変貌を模索する過渡期の姿がそのエネルギッシュな音楽とともにまぶしく感じられます。
自身のレギュラー・コンボを率いてサイドメンが充実してくるのもこの時期です。マッコイ・タイナーとエルヴィン・ジョーンズの参加は決定的に重要と思われます。特に、エルヴィン・ジョーンズのたたき出すリズムは重奏的で複雑ないわゆるポリリズムと言われる圧倒的な存在感があって、それによってコンボが醸し出す雰囲気には目の離せない緊張とスリルが内在するようになります。また同時にリズムを刻むことを強要されなくなったベースはより自由に解き放たれ独自のラインを奏することができます。こうしてコンボの音楽は独特の深みのある色と光を映すようになると考えられます。
本作と同じ日に録音されたアルバムが他に2枚あり、あの著名な「My Favorite Things」と「Coltrane's Sound」なのですね。本作はこれら2作と比較して無名に近いアルバムと言えるかもしれません。しかしながら、内容的には充実いや成熟というくらいに引けをとるものではありません。この時期、主にアトランティック・レーベルに録音されたコルトレーンの音楽はどれをとっても高水準にあり、コルトレーン・ジャズと呼べる自己のジャズがほぼ完成していると言えるでしょう。
もう一つ触れておかねばならないのは、マッコイ・タイナーのピアノ演奏の魅力です。本作は題名の通りブルース集なのですが、ブルースを得意とするタイナーの各曲でのソロ演奏が実に心地よいのです。マッコイ・タイナーのこの時期のピアノはまさにコルトレーンのピアノ版といっていいくらいにコルトレーンの影響下にあり、そのモード奏法とリリシズムに裏打ちされたピアノ演奏は、独特のブルージーな気だるい雰囲気と一種の緊張を強いられる独特のリズム背景の中を、孤高に疾走してゆく美しい音列が鮮烈なのです。本作は聞き込むほどにはまさにそうしたマッコイ・タイナーの魅力を味わうべき作品なのだと確信するのです。
全7曲。もちろん全曲ブルースですが、黒っぽさが嫌味になるような類のものではなくて意外にあっさりと感じられます。真摯なジャズが持つ適度な緊張感がバランスよく全体を支配しているのでしょう。繰り返して聞くべきジャズとはまさに本作のようなジャズを言うのに違いありません。
1. Blues To Elvin
2. Blues To Bechet
3. Blues To You
4. Mr. Day
5. Mr. Syms
6. Mr. Knight
7. Untitled Origional (Bonus Track For CD Only)
John Coltrane (ts), McCoy Tyner (p), Steve Davis (b), Elvin Jones (ds).
詳しくはアマゾンでどうぞ。→John Coltrane / Coltrane Plays the Blues
関連エントリはこちらから。
→ セロニアス・モンク/ウィズ・ジョン・コルトレーン (1957)
→ ジョン・コルトレーン/ブルー・トレーン (1957)
→ ジョン・コルトレーン/ソウル・トレーン (1958)
→ ジョン・コルトレーン/ジャイアント・ステップス (1959)
→ ジョン・コルトレーン/マイ・フェイバリット・シングス (1960)
→ ジョン・コルトレーン/オレ・コルトレーン (1961)
→ ジョン・コルトレーン/インプレッションズ (1961)
→ ジョン・コルトレーン/ライブ・アット・ザ・ビレッジ・ヴァンガード (1961)
→ ジョン・コルトレーン/コルトレーン (1962)
→ ジョン・コルトレーン/ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン (1963)
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:12
クリス・ボッティ/クリス・ボッティ・イン・ボストン
JAZZ Trumpet 2
2012年08月09日
Chris Botti / Chris Botti in Boston
クリス・ボッティの素敵な世界へようこそという感じです。たまにはこうした幻想の世界に遊ぶのもいいものですね。ジャズという枠に捕われずにヨーロッパ音楽の伝統というか深みを伝えてくれる音楽でもあります。スムーズ・ジャズ。夕暮れ時の物寂しいけど安らかな一時。パーソネルは、クリス・ボッティ(tp)他。2008年Boston Symphony Hall録音。Sony。
ポピュラー色の強いジャズです。汗臭い臭いが希薄です。ヨーロッパの洗練された哀愁が漂います。クリス・ボッティのトランペットの響きはかなり衝撃でした。空中高く鳴り響くような音色は独特の郷愁を含んでいます。中性ヨーロッパの街のラッパ吹きのような何か懐かしく貧しくて、でも人間的な香りを感させる魅惑的な世界。
俗っぽさというか媚びた印象があります。トランペットのオープンで空間に伸び上がる孤独な響きは多少マイルスの音楽を思い出させてくれます。マイルスの場合はア−トとか即興という自由な印象があって大衆色が希薄になるのですが、こちらは恥じらい無くその色香をにじませています。真摯なジャズ愛好家からはきっと負のイメージになるでしょう。
中世のラッパという素朴な印象に救われます。このクリス・ボッティの音楽は精神状態によって優しい音楽が心に沁みるときがあるでしょう。本作中のしっとりした曲たちはそんな音楽です。泣かせ上手なものと分かっていても深く沁み渡るときというのは相当に参っている証拠なのだろうとも思います。
ゲストに、スティング、ジョン・メイヤー、スティーヴン・タイラー、ヨーヨー・マ、ドミニク・ミラー、ルシア・ミカレリ、キャサリン•マクフィーなど多彩な著名音楽家が参加しています。全13曲。スティーヴン・タイラーをフィーチャーしたスマイルが一番好きです。
1. Ave Maria
2. When I Fall In Love
3. Seven Days (featuring Sting and Dominic Miller)
4. Emmanuel (featuring Lucia Micarelli)
5. I've Got You Under My Skin (featuring Katharine McPhee)
6. Cinema Paradiso (featuring Yo-Yo Ma)
7. Broken Vow (featuring Josh Groban)
8. Flamenco Sketches
9. Glad To Be Unhappy (featuring John Mayer)
10. Hallelujah
11. Smile (featuring Steven Tyler)
12. If I Ever Lose My Faith In You (featuring Sting and Dominic Miller)
13. Time To Say Goodbye
YouTubeからスマイルを引用させていただきましょう。こちらは別に販売されているDVDからの映像のようです。音源はCDと同じです。こういう可憐なメロディを個性的なロック・シンガーが歌うのって割と好きなんですが、このトラックは特にその典型です。
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こちらはキャサリン・マクフィーが歌うジャズ・スタンダード I've Got You Under My Skin。この曲は自分の中ではダイナ・ワシントンのものがお気に入りだったのですが、このマクフィーのリズミカルなトラックが新たな標準になる気配濃厚です。
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詳しくはアマゾンでどうぞ。→Chris Botti in Boston
DVDはこちらです。→Chris Botti in Boston
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:20
ビル・チャーラップ/アイム・オールド・ファッッションド
JAZZ Guitar 1
JAZZ Piano 4
2012年07月03日
Bill Charlap / I'm Old Fashioned
ビル・チャーラップの変則ピアノ・トリオ演奏。ピアノ、ギター、ベースのトリオ。ピーター・バースタインという私にとっては初めてのギタリストに魅了されました。渋いギターです。表題通り古い様式なのだけれど不思議な新鮮な感覚のあるジャズ。パーソネルは、ビル・チャーラップ (p), ピーター・バーンスタイン (g), ピーター・ワシントン (b)。2009年NY録音。Venus Records。
最近、敬愛すべきビル・チャーラップさんとはご無沙汰していまして、チャーラップさんには悪いのですが、このアルバムに魅了された主要素はギターのピーター・バーンスタインにあります。そのくすんだ音色から繰り出されるグルーヴィーなサウンドに心を奪われています。渋いです。クールです。彼の演奏こそがオールド・ファッションなのですよ。
私はバーニー・ケッセルのギターが好きでよく聞くのですが、このバーンスタインさんのギターはそのケッセルに非常によく似ています。レコードをすり切れるほど聴いてしまうような四畳半的なジャズ。音色もフレーズもそっくりな印象です。よくスイングすると同時に渋いフレーズを次々に繰り出してくるギターなのですね。
ビル・チャーラップの演奏もいつもにもまして何かしらオシャレな雰囲気があります。ギターのバーンスタインに触発されているのだと思います。全13曲。いずれもミディアムかそれ以下のゆったりした分かり易いジャズです。最上の寛ぎがあって耳を澄まして聴き入っていると自然と気持ちが落ち着きます。
大好きなスタンダード曲のオンパレード。ここまで名曲が並ぶのは珍しいのではないでしょうか。チャーラップのピアノとバースタインのギターはよくマッチしています。いずれもねっとり絡み付くような粘着質な感覚があって、それでいて愛らしいメロディックなフレージングがあり、さらには適度なグルーヴがあるのですね。
1. I'm Old Fashioned
2. I Can't Get Started
3. Stella By Starlight
4. Ghost Of A Chance
5. All The Things You Are
6. Easy Livin
7. Darn That Dream
8. Angel Eyes
9. What Is This Thing Called Love
10. Body And Soul
11. Gone With The Wind
12. Everything Happens To Me
13. These Foolish Things
Bill Charlap (p), Peter Bernstein (g), Peter Washington (b).
Recorded at The Avatar Studio in New York on December 17&18, 2009.
YouTubeからピーター・バーンスタインの演奏を1本拝借してきました。ブラッド・メルドーらとのトリオ演奏です。バースタインのギターは本アルバムの演奏とはかなり差がありますが、実にスインギーかつグルーヴィー、また現代的でもあり、実にいい感じですね。メルドーのオルガン演奏もクールでカッコいい。一瞬ディープ・パープルのスモーク・オン・ザ・ウォーターっぽいフレーズが出てきてびっくりさせられますが。
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詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Bill Charlap / I'm Old Fashioned
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:03
シーネ・エイ/ドント・ビ・ソー・ブルー
JAZZ Vocal 2
2012年06月26日
Sinne Eeg / Don't Be So Blue
シーネ・エイ。デンマークの女性ヴォーカル。適度なハスキーヴォイス、鋭角的クリアーな感覚、豊かでパンチある声質、まさに正統派ヴォーカルですね。本作は5作目に当たるようですが、内容の充実した聞きごたえあるアルバムです。音質よくピアノ伴奏も素敵、自作曲も好ましくてもう言うことなしの素晴らしいヴォーカル作品。パーソネルは、シーネ・エイ (vo), ヤコブ・クリストファーセン (p), モルテン・T・ラムズボル (b), モーテン・ルンド (ds)。2010年。Red Dot Music。
シーネ・エイはデンマークLemvig生まれで、年齢は私の調べた範囲では不明です。2003年に1stアルバムを出してメジャーデビュー。本作は5作目。すでに6作目を先月2012年5月にリリース済み。これほど歌がうまいと感じる北ヨーロッパの女性ジャズヴォーカルに出会うのははじめてのことです。北欧的でないアメリカンな雰囲気が興味を引きます。
本物を感じさせる女性ヴォーカル。ハスキーボイスで歌心がありますね。静かな中に強烈なパワーを秘めています。本作はまた音質が抜群に良いです。ジャズ・ヴォーカルで音質が良いアルバムはそれだけでかなり高得点になります。雑誌「ジャズ批評」2010年ジャズ・オーディオ・ディスク大賞で銅賞。
ピアノのヤコブ・クリストファーセンがヨーロピアンな清楚な印象で好きなのです。北欧とくれば普通はこのように静かで詩的な印象です。シーネ・エイは特別すぎますね。コペンハーゲンという歴史あるジャズ先端の街で研ぎすまされていったのでしょう。
全11曲。自作7曲。自作曲にいい曲が多いのも頼もしい限りです。異色のタレントです。ボーナス・トラックの It Might As Well Be Spring が好きです。途中で得意のハミングで2コーラスほど繋ぎますがそのセンスが実にいいんですね。ベテラン黒人歌手のような自在の歌い回し。
5曲目Goodbye はクリス・コナーのビレッジ・ゲイトのライブ演奏が自分の中ではベストですが、シーネ・エイはいつかライブでコナーを超える名唱を披露してくれるだろうと期待。
3曲目 The Writing On the Wall はクリストファーセン以下リズム隊とのコラボがいい雰囲気です。やはりありふれた歌手でないことが明らかで高い音楽性を否応無く感じさせられます。4曲目 Last Ride は素敵な楽曲。シーネ・エイの歌唱はこの種の力の抜きかげんが絶妙で実に心地いいんです。
1. Don't Be So Blue
2. Highway One
3. The Writing On the Wall
4. Last Ride
5. Goodbye
6. Down On West Fuxing Lu
7. The Sound of Music
8. The Streets of Berlin
9. My Favorite Things
10. Time to Go
11. It Might As Well Be Spring (Bonus Track)
Sinne Eeg (vo), Jacob Christoffersen (p), Morten Toftgard Ramsbol (b), Morten Lund (ds), Jesper Riis (tp on 7).
YouTubeからアルバム名自作曲の表題曲を引用させていただきましょう。ピアノとのシンプルなデュエット演奏に北欧らしい静寂と透徹した美意識を感じます。ヤコブ・クリストファーセンのピアノ伴奏が実に素敵。作曲もセンスいいです。
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同じ曲をトリオ伴奏で。秘めた情熱をここでは少し派手めに歌い上げています。粋でロマティックなクリストファーセンのピアノが静かに好サポート。リヴァーブの効いた音質も印象的。
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好曲をハスキーヴォイスでさらりと歌います。途中までですがその見事な歌さばきに拍手。
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シーネ・エイ公式HP→ SINNE MUSIC
詳しくはアマゾンでどうぞ→ Sinne Eeg / Don't Be So Blue
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:38
Sennheiser CX271
_others
2012年06月18日
Sennheiser CX271
カナル型ヘッドフォンを購入しました。iPodとともに愛用しています。ヘビーユーザーなので仕方ないですが、これまでいくつものイヤホンを消費してきました。最近は耳の中に挿入するでっぱりがあって、それのせいなのでしょう、低温が結構にいい音で再生できるイヤホンが増えています。ゼンハイザーのヘッドフォンは学生の頃に買って気に入っていましたので、少し高かったのですが思い切って購入しました。ジャズのウッド・ベースの音がしまりよく鳴ってくれるのでとても満足しています。
最近のイヤホンは、いやヘッドフォンですね、いい音するんです。もうびっくりです。この1年くらいで様変わりしました。家電のお店に行きますと、そうした多くのヘッドホンが並んでいます。高価なものから比較的安価なものまで。高価なものは1万円どころか、何万円もするのです。2000円や3000円でも高いと思いますが、それが結構いい音するのですね。耳の中に挿入する部分があるために、外界の音が遮断され、かつ、豊かな低温が響きます。過去のイヤホンとは大違いです。音楽鑑賞に堪えられる代物です。
ゼンハイザーのヘッドホンはシャープで切れのよい音質が魅力です。秋葉原のヨドバシで2年保証ってのが元からついていましたので、約3000円と高めでしたが購入してみることにしました。iPodを毎日持ち歩く者にとって、断線などによるイヤホンの故障は毎度の出来事です。丈夫そうなゼンハイザーの製品を試聴してみますとなかなかいい音でした。ヨドバシのお店では、試聴する際は自分のipodやiPhoneにそのヘッドホンを繋いで聞くことができます。これはどこのお店でも同じなのでしょうか、よく分かりませんが。
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Sennheiser CX271
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:09
セルソ・フォンセカ/スローモーション・ボサノヴァ
_Bossa Nova / MPB
_Popular Music
2012年06月16日
Celso Fonseca & Ronaldo Bastos / Juventude
セルソ・フォンセカ。ここ1ヶ月最も頻繁にiPodで聞いている音楽を紹介しましょう。21世紀のボサノヴァの旗手セルソ・フォンセカ。本作は癒し系comfortableサウダージ。ボサノヴァに求める美学がここにあります。一日中BGMで流したい、本気でそんな気にさせてくれます。パーソネルは、セルソ・フォンセカ (vo, g, arr) 他。2001年。リオデジャネイロ。
このところボサノヴァをたくさん聞いています。これまではジョビンを中心にしてその周辺しか知らなかったのですが、きっともっと他にもいいものがあるに違いないと80年代以降現在に至るボサノヴァを手当たり次第に探索しています。ボサノヴァというより、広くMPB(Musica Popular Brasileira)というのが普通になりつつあるようですが。
今もまだ探検の途上ではありますが、自分にとっていくつか大きな発見があり、セルソ・フォンセカの音楽との出会いはその最大の一つです。他には、マルコス・ヴァーリやイヴァン・リンス等が新たに知り得たブラジリアン・ミュージシャンです。いずれまたここで紹介することになるでしょう。
セルソ・フォンセカは1956年リオ・デ・ジャネイロ生まれのカリオカ。母国ブラジルでは、ギタリストとしてジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローソ、ミルトン・ナシメントをはじめ数多くのトップ・アーティストのレコーディングやツアーに参加。プロデューサーとしてもジルベルト・ジル、ガル・コスタ、ダニエラ・メルクリ、ダウーチらを手掛け、数々の傑作を生み出しているとのこと。
セルソ・フォンセカの魅力は、ジョアン・ジルベルトのようなつぶやき系の渋いヴォーカルとギターが生み出すサウダージ感覚にあります。ジョアン・ジルベルトに比して柔らかい声質とビート感のある音楽作りが独特の癒し空間を生み出します。素敵な曲を書くこともできます。センスがきっと抜群にいいのですね。
全14曲。どの曲も静かに優しくメロディを奏でて軽快なリズムを刻みます。この幸せな音楽に耳を傾けているとこわばった心が自然に溶解していくようです。フォンセカの人間的な歌声と美しい伴奏のハーモニーが全体を包み込んで心身ともに癒されてゆくのが実感できます。
1. Samba E Tudo
2. Satélite Bar
3. O Que Restou Do Nosso Amor (Que Reste I'll De Nos Amours)
4. Slow Motion Bossa Nova
5. Valeu
6. Ledusha Com Diamantes
7. A Voz Do Coracao
8. Dylan Em Madrid
9. Feito Pra Voce
10. Miles Ahead Of Time
11. O Sorriso De Angkor
12. Meu Carnaval
13. La Piu Bella Del Mondo / Citação: A Voz Do Morro
14. Juventude
YouTubeからフォンセカの雰囲気が感じられるものをピックアップしてみました。本作のサブ表題曲 Slow Motion Bossa Nova。フォンセカのヴォーカルとギターから形作られるサウンドは独特の魅力に溢れています。
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同じ曲を別の演奏で。何度聞いても飽きないのはいい音楽である証拠。こちらのフォンセカはガットギターを弾いています。ピアノが繊細で美しいです。
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本作で1番のお気に入り曲がYouTubeにCD音源そのままにありましたのでここに拝借させていただきましょう。13曲目 La Piu Bella Del Mondo「この世で最も美しいもの」と題された曲は過去のヒット曲のカバーになりますが、そのリズム感覚とフォンセカのヴォーカルが醸すサウンドメイクは独特のサウダージの魅力を伝えています。ちなみに画像は有名女優ら美形のオンパレードですが何人くらいをご存知でしょう。
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セルソ・フォンセカのCDアルバム(公式HP、試聴可)→ Celso Fonseca
詳しくはアマゾンでどうぞ→ Celso Fonseca & Ronaldo Bastos / Juventude
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投稿者 Jazz Blogger T : 14:51
ジェーン・モンハイト/テイキング・ア・チャンス・オン・ラブ
JAZZ Vocal 2
2012年02月27日
Jane Monheit / Taking a Chance on Love
ジェーン・モンハイト。50年代白人女性ヴォーカルを想起させる本格正統派。まろやかで艶やかな声質に女性らしさと母性を感じて魅了されます。MGMのミュージカル映画を彩った歌曲集。オーケストレーションをバックにしたゴージャスな作品。パーソネルは、ジェーン・モンハイト (vo)他。2004年。Sony。
ジェーン・モンハイト(1977〜)は米国NY州の出身。1998年若手ジャズマン登竜門のモンク・コンペティションで優勝し2000年にメジャー・デビュー。期待の大型正統派女性ヴォーカルですね。女性らしいソプラノの高い声が、柔軟でまろやか、そしてシルクのような艶やかさなのですね。本CDは2004年リリースされたジェーン・モハイトにとって4作目の作品。同年のスイング・ジャーナル誌のゴールド・ディスク大賞ボーカル賞(海外部門)を受賞しています。
YouTubeのジェーンさんの画像をいくつか観ましたが、その歌唱風景がとても魅力的なので驚きました。50年代60年代の往年の古き良き色香発散型ジャズヴォーカル。アメリカン女性らしいキュートな美貌に肉感的な体躯、きりりと輝く瞳、表情豊かな口元など、私にとって久々に下半身を直撃する女性ヴォーカリストなのです。
例えば、フラン・ウォーレンという40年代後半から50年代に掛けて活躍した白人女性ヴォーカルを思い出させてくれます。クロード・ソーンヒル楽団の名盤『リアル・バース・オブ・ザ・クール』(1947年)での「サンデイ・カインド・オブ・ラブ」や「アイ・ゲット・ザ・ブルース・ホエン・イット・レインズ」での名唱が私にとっては大変に忘れがたいヴォーカルです。高音部の美しい情感、しっとりとした清潔感などは独特の魅力があり、ジェーン・モンハイトにも同様の魅力を感じます。
全12曲。2曲目の In the Still of the Night がこのところ大のお気に入り。息の長いメロディを絞り出すように美しく歌われる曲ですが、ジェーン・モンハイトのまろやかな情感としっとりとした声質が女性らしく実に魅力的なのです。
他には、2曲目と同様の路線の 4曲目 Bill や 8曲目 Do I Love You? 、それに、12曲目 Over the Rainbow などしっとりしたバラッドが実にいいです。よく通る綺麗な高音に魅了されます。9曲目 I Should Care もジャズ・フィーリングがいい具合です。
1 Honeysuckle Rose
2 In The Still Of The Night
3 Taking a Chance on Love
4 Bill
5 I Won't Dance
6 Too Late Now
7 Why Can't You Behave?
8 Do I Love You?
9 Love Me Or Leave Me
10 Embraceable You
11 Dancing in the Dark from "The Band Wagon"
12 Over the Rainbow
YouTubeから In the Still of the Night がありましたので引用させていただきましょう。CDではオーケストラ伴奏で芳醇な印象でしたが、こちらはコンボをバックによりジャジーです。清潔感のある美形のジェーンが麗しい声を苦悶の表情で絞り出すところなどに色香を感じます。最近のジェーンは別人のように母なる巨漢に変化しており個人的にとても残念です。笑)
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Jane Monheit / Taking a Chance on Love
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投稿者 Jazz Blogger T : 23:05
パトリシア・バーバー/ナイト・クラブ
JAZZ Vocal 2
2012年02月21日
Patricia Barber / Night Club
パトリシア・バーバー。通好みの渋いジャズ・ヴォーカルとピアノ。アクのある低い声質にグルーヴィーな本格的ピアノ・インプロビゼーション。その独特のジャズ世界はクセになりますね。ナイトクラブの雰囲気が伝わってくるクールでブルーな作品。パーソネルは、パトリシア・バーバー (vo, p)、チャーリー・ハンター (g)、マイケル・アーノポル、マーク・ジョンゾン (b)、アダム・クルツ、アダム・ナスバウム(ds)。2000年シカゴ録音。Blue Note。
不思議な感覚の作品です。個性的です。クールな歌に乾いたギターの音色が実によくマッチしています。J・ロンドンとB・ケッセルの組み合わせが思い起こされます。バーバーのピアノも静溢な中に確かなソウルを感じさせてくれます。
非常にクールなジャズ。そして、感情というか情念が込められた重い音楽でもあります。聴くたびにその魅力に確実に嵌ってゆきますね。ほのかに輝く美しさ、注意しないと気づかないけれど、一度その輝きに開眼するともう毎日涙するような感動の連続です。
好きです、決して面と向かっては言えない。恥ずかしさもあるけれど、軽々しく言葉にしてしまうこともできない深い想い。このもどかしい気持ちを内に秘めながら醒めた表面で接する自分にうんざり。憧憬の念が日ごと募ります。最高の賛辞を贈りたくなる作品。
全12曲。スタンダードが並びます。8曲目のボサノヴァや11曲目の映画「男と女」の主題歌なども入っていて楽しめます。静かな夜にひっそりと一人で聞く音楽。渋すぎてもう堪らない。貴女の魅力には降参です。完全に参っています。
1. Bye Bye Blackbird
2. Invitation
3. Yesterdays
4. Just For A Thrill
5. You Don't Know Me
6. Alfie
7. Autumn Leaves
8. Summer Samba
9. All Or Nothing At All
10. So In Love
11. A Man & A Woman
12. I Fall In Love Too Easily
Patricia Barber - vocals, piano
Michael Arnopol - bass (5, 9, 10)
Adam Cruz - drums (4, 5, 6, 8, 9, 11)
Charlie Hunter - 8-string guitar (4, 6, 11)
Marc Johnson - bass (1, 2, 3, 7, 8)
Adam Nussbaum - drums (1, 2, 3, 7, 8)
YouTubeからやはり渋い映像と音楽を1本引用させていただきましょう。Estateというボサノヴァ系のスタンダード曲。原曲の憂いあるメロディに馴染んでいる人にはバーバーのセンスが伝わるはず。そんなバーバーのきわどい歌と、M・ジャクソンを彷彿とさせるビブラフォンとの組み合わせがこれまたクールでグルーヴィー。この種の魅力を一度知ってしまうと貴方も同じ穴の狢(むじな)、もう逃れられない、辞められません、ってね。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Patricia Barber / Night Club
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:53
キアラ・シヴェロ/ラスト・クォーター・ムーン
JAZZ Vocal 2
2012年02月14日
Chiara Civello / Last Quarter Moon
ここ1週間毎日のように聞いているキアラ・シヴェロのデビュー作品。特にボサノヴァ・アレンジがたくさんあって実に心地よいアルバムなのですね。ポップだけれどしっとりした情感、優しく自然な声質に和みます。恋心や傷心が静かにゆっくりと癒されることでしょう。今夜も厳冬の中、自宅で一人キアラの歌を聴きながらゆっくりと溶けていきます。パーソネルは、キアラ・シヴェロ (vo)他。2004年NY録音。Verve。
キアラ・シヴェロ(1975〜)はローマ出身。バークレー音楽院に学び、辣腕プロデューサーのラス・タイトゥルマンと知り合って米国でデビュー。英語、イタリア語だけでなく、ポルトガル語でボサノヴァも歌います。作詞作曲もこなす。
ラスト・クオーター・ムーンとは21夜から23夜の頃の月のことを示しており、始めの終わり、終わりの始まりといった意味を持つ。キアラ自身が月暦からヒントを得て命名したとのこと。
私の場合、想い出は音楽と繫がります。このキアラ・シヴェロのデビュー作はずっと記憶に残る希少な一枚になることでしょう。淡く儚いけれど素敵な恋の記憶。人を好きになることは人生の贈り物。結末はたいてい辛く悲しいけれど、心が大きく揺れる一瞬の喜びは生の輝かしい瞬間。
届かない熱い想いは自分の中の奥深いどこかに昇華して結晶を形作ります。その結晶化された純粋な感情は生きることの素晴らしさを改めて実感させてくれることでしょう。甘く切なく、そして辛い、けれど、熱い感情の高まりの感覚はずっと長く身体の中に快い記憶として宿ります。
キアラ・シヴェロの歌と音楽を聴いていると、そうした切ない負の想いがプラスの方向にじんわりと転化されていくのが実感できます。純粋な心が静かに全体を覆って、生きていることそれ自体が安らぎに満ちた幸せなものであることを感じさせてくれます。
全14曲。最後の2曲はボーナス・トラック。静かな夜に静かに一人聴く音楽。後半のボサノヴァ・アレンジの曲が特に素敵です。鎮静で美しい歌の5曲目、生を謳歌する7曲目、悲しくも美しいボサノヴァの11曲目など。実に素晴らしい心あるアルバムですね。
1. Here Is Everything
2. The Wrong Goodbye
3. Ora
4. Caramel
5. Parole Incerte
6. Last Quarter Moon
7. Nature Song
8. In Questi Giorni
9. Sambaroma
10. Trouble
11. Outono
12. I Won't Run Away
13. Beijo Partido
14. Sambaroma(Extended Version)
Chiara Civello (vo), Miguel Zenon (as), Alaine Mallet (p), Adam Rogers (g), James Genus (b), Clarence Penn (ds), Ben Street (b), Mike Mainieri (vib), Russ Titelman (prod).
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Chiara Civello / Last Quarter Moon
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:26
チコ・ハミルトン/エリントン組曲
JAZZ others 3
2012年02月02日
Chico Hamilton / The Original Ellington Suite
今日はチコ・ハミルトンですね。エリック・ドルフィーが独立直前にサイドメンとして在籍していた58年の作品。ドルフィーの個性はすでに十分明らかになっていますが、まだ少し伝統的な香りがあり、その微妙なところがおもしろいのですね。ドルフィーの陽性で極めて快調な吹奏を捉えたドルフィー・ファンには貴重で堪らない作品。パーソネルは、エリック・ドルフィー (as,fl,bcl)、ネイト・ガーシュマン (cell)、ジョン・ピサノ (g)、ハル・ゲイラー (b)、チコ・ハミルトン (ds)。Pacific Jazz。1958年LA録音。
エリック・ドルフィー(1928-64)が冴えています。肩を張らず自然体で分かり易いところが好感持てますね。晩年のドルフィーは特にそうですが、ドルフィー名義の作品はいずれも哲学的で小難しいところがあって、それはそれでよいのですがけれど、本作のドルフィーは基本的に明るくてあっさり味で、サイドメンという気易さのためなのかどうか、気負いがないのでしょう。
エリントン作品集になっていまして、実はもう一つのおエリントン集というのがありまして、そちらが本家で、こちらは長くお蔵入りになっていてずっと後になって発掘されたもの。ハミルとンがドルフィーの個性の出た本作をよい出来と感じなかったという説もあるようです。ハミルトンは室内楽クラシックのような格調高いジャズ(チェロ弾きを多用したり?)を求めていて、その中で時にむき出されるドルフィーの本性を快しとしなかったのかもしれません。
その後のドルフィーは、1960年以降大活躍をすることになります。例えば、1960年だけでも、リーダー作として「アウトワード・バウンド」「アウト・ゼア」、ミンガス・グループへの参加、それにブッカー・リトルとの双頭コンボ活動がスタートします。リーダー作では、いかにも室内楽的なチェロ弾き(ロン・カーター)を入れたりして、ハミルトンの影響下にあったように思えます。
全9曲。エリントン・ナンバーが並びます。ドルフィーは、すでに3管を吹き回すことを覚えていたようですね。私はアルトが実に調子よく聞こえます。その艶のある響きはいったい何なのでしょう。エリントン楽団のジョニー・ホッジスを思い出させてくれます。アドリブ・ラインも多くはオーソドックス、多少アクが出ている感じで、後年の全編アクというものとは雲泥の差があります。
たいてい2コ−ラス目で少しはじけるのですね。最初は抑え気味に、そのうちちょっと冒険してみようような。個性を発散したくてしたくてうずうずしている感じが伝わってきますし、その微妙なところが案外おもしろいのですね。吹っ切れて突っ走る、自分の世界に浸ってしまうと付いていけないのですが、自重しながら少しだけはじけるというところが本作のいい味と思われます。
アルト吹奏は2, 4, 7, 9曲目、フルートは1, 3, 5,曲、バスクラリネットは6, 8曲目です。やはりアルト演奏がスリルがあっていいですね。圧倒的な存在感。ギターやチェロとの不可思議な空間ではあります。9曲目などは後年のドルフィーそのままなのですね。コルトレーンよりも早い時期に新主流派らしい音を表現していたと言えるでしょう。面目躍如。
1. In A Mellotone
2. In A Sentimental Mood
3. I'm Just A Lucky So And So
4. Just A-Sittin' And A-Rockin'
5. Everything But You
6. Day Dream
7. I'm Beginning To See The Light
8. Azure
9. It Don't Mean A Thing
Eric Dolphy(as,fl,cl), Nate Gershman (cello), John Pisano (g), Hal Gaylor (b), Chico Hamilton (ds).
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Chico Hamilton / The Original Ellington Suite
関連エントリはこちらから。
→エリック・ドルフィー/ファイブ・スポットのエリック・ドルフィーVol.1
→エリック・ドルフィー/アット・ザ・ファイブ・スポットVol.2
→エリック・ドルフィー/ラスト・デイト
→エリック・ドルフィー/アウト・ゼア
→ エリック・ドルフィー/イリノイ・コンサート
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:19
ニコラ・コンテ/リチュアルズ
JAZZ others 3
2012年01月31日
Nicola Conte / Rituals
今日はニコラ・コンテですね。クラブ・ジャズで大人気のイタリア人DJであり、ギタリスト、作詞作曲家、プロデューサーですね。本作は彼の3作目のアルバム。ラテン系の快適なボサやサンバ、ジャズワルツのスタイリッシュ・サウンドが新世代ジャズを感じさせます。パーソネルは、ホセ・ジェームス、アリーチェ・リチャルディ、キム・サンダース、キアラ・シヴェロ (vo)、ファブリツィオ・ボッソ、ティル・ブレナー (tp)、ジャンルカ・ぺトレラ (tb)、グレグ・オズビー (as)、ダニエル・スカナピエコ (ts)、ティモ・ラッシー (bs)、ピエトロ・ルッス(p)、テッポマキネン(b)、ロレンツォ・トゥッチ (ds)他。Universal。2008年。
たまには浮気というか、ちょっといつもと違うものを聞いてみたくなるものです。それが案外よかったりして、自分の中に新しい音楽枠ができてゆくのですね。酸いも辛いも甘いも実体験して百戦錬磨の耳が鍛えられてゆくのだと思います。モダン・ジャズは成熟して、ネオ・ハード・バップがもてはやされるけれど、それはマンネリ化の裏返し、新世代の息吹が身近なところにあることを感じます。
本日のニコラ・コンテは私にとって新しい未知のミュージシャンです。クラブ・ジャズの世界では超の付く著名人らしいですが。確かに本作を何度も繰り返し聴いていますと、単に表面的に着飾った子供だましの音楽ではなく、魅力的な楽曲があり、おしゃれなリズムがあり、渋いグルーヴもありと、極上のエンターテイメントであることが明らかなのです。
ただ、売れ線というか、どうすればイカした音楽になるかってことを知り尽くしていて、これでもかという感じで来られるとそれが少し鼻につくということは多少あるかもしれません。スタイリッシュという形容詞にはそういうところがあって、表裏一体、ぎりぎりのところで勝負してくるのですね。マイルス・デイヴィスがやはりいつもそういう目線であったと私は感じています。斬新さ・創造とエンターテイメント・商業的成功。
本作は13曲中、11曲がコンテ作曲のオリジナル。また、11曲がヴォーカルものです。アリーチェ・リチャルディ、キアラ・シヴェロ、キム・サンダース、ホセ・ジェームスの4名の今とてもホットなジャズ歌手がフィーチャーされています。どの曲もメロディとリズムが素敵です。いい雰囲気のカフェで流れているような音楽ですね。ブラスがうまく使われています。それに各ソロもふつうにハード・バップしていて極めてジャジー。
1. Karma Flower (Chiara Civello)
2. The Nubian Queens (Jose James)
3. Like Leaves In The Wind (Jose James)
4. Love In (Kim Sanders)
5. Awakening (Jose James)
6. Paper Clouds (Chiara Civello)
7. I See All Shades Of You (Alice Ricciardi)
8. Macedonia
9. Song Of The Seasons (Alice Ricciardi)
10. Red Sun (Kim Sanders)
11. Black Is The Graceful Veil (Kim Sanders)
12. Caravan
13. Rituals
14. The Nubian Queens (Jose James, Samba Version)
YouTubeから2004年2作目「Other Directions」からKind of Sunshineのプロモーション映像?をピックアップしてみました。新鮮なジャズを感じます。ギターを弾いているのがニコラ・コンテ。壁の写真はゴダールですね。この曲を聴いてビートルズのTommorrow Never Knowsを連想するのは私だけ?
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Nicola Conte / Rituals
関連エントリはこちら。
→ アリーチェ・リチャルディ/カムズ・ラブ
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:16
アリーチェ・リチャルディ/カムズ・ラブ
JAZZ Vocal 2
2012年01月30日
Alice Ricciardi / Comes Love
21世紀イタリアのジャズがマイブームです。今日はミラノ出身の女性ヴォーカル、アリーチェ・リチャルディの Blue Note デビュー作。ハイレべルの実力派。しっとりとした個性的な歌唱は大物の雰囲気。パーソネルは、アリーチェ・リチャルディ (vo)、ロベルト・タレンツィ(p)、マルコ・ボヴィ (g)、パオロ・ベネディティーニ、ニール・マイナー (b)、ウィル・テリル (ds)、ガエターノ・パルティピロ (as,fl)、ファブリツィオ・ボッソ (tp)他。Blue Note。2006-07年NYC&Uboldo録音。
アリーチェ・リチャルディ (1975〜) の歌声を初めて耳にしたのは、彼女が2曲だけ参加したニコラ・コンテのアルバム Rittuals です。少しくぐもったスモーキーヴォイスが印象的でした。早速に続けて評判の本作を聞いたのですが、かなり異なった印象を抱きました。
まず驚いたのが、アリーチェはあのカーメン・マクレエにとても似ているということです。カーメン・マクレエの歌唱は独特なもので、よく似た歌い方をする人は稀なので、最初はその意外性に驚きました。特にバラッドでは類似性が高いと思います。確かにアリーチェ自身が影響を受けた歌手として挙げている中に、マクレエの名があり、まあ納得なのですが。ちなみに、他には、ビリー・ホリデイ、シャーリー・ホーン、エラ・フィッツジェラルドの名が挙っています。
メリハリのある中音域、少しくぐもった暖かい高音域、丁寧に言葉を重ねる歌い回し、優しげでしっとりした情感など、まだ若いのにとても落ち着いた雰囲気と確固とした個性が感じられます。名門 Blue Note レーベルからアルバムを出すほどですからその実力はすでに認められているようですね。
あと、本作の特筆すべきはその音質が私の好みに一致していることです。ヴォーカルの録音はピンからキリまであって、人の歌声を録音によって最もよい形で再現するのは容易でないのだと思います。本作の音は、適度にリバーブが効いており、子音が明確でまろやかな女性の声が素敵に捕えられていると思います。バックの楽器とのバランスもよいです。
全13曲。ヴォーカル・アルバムとして楽しめる内容です。5曲目が説得力のある歌唱が光るスロー・バラッド。ミディアム・テンポの佳曲7曲目がしなやかで彼女の特徴がよく出ています。イタリア語で歌う13曲目がカンツォーネ風の哀愁が漂いエキゾチックでいい感じ。
1. Comes Love
2. Summer Song
3. Give Me The Simple Life
4. I Was Doing Allright (The Goldwyn Follies)
5. I'm Gonna Laugh You Right Out Of My Life
6. Who Cares (As Long As You Care For Me)
7. If I Should Lose You
8. The Boy Next Door
9. I'll Remember April
10. Ghost Of Yesterday
11. Here Lies Love
12. By Myself
13. Le Tue Mani
YouTubeから2008年の映像を引用させていただきましょう。ファブリツィオ・ボッソやルカ・マンヌッツァらとの共演ライブです。場所はイタリアはナポリ。とてもいい感じのジャズ・フィーリングが伝わってきますね。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Alice Ricciardi / Comes Love
関連エントリはこちら。
→ ニコラ・コンテ/リチュアルズ
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投稿者 Jazz Blogger T : 20:36
ケニー・ドーハム/マタドール
JAZZ Trumpet 2
2012年01月25日
Kenny Dorham / Matador
ケニー・ドーハムとジャッキー・マクリーンの2管クインテットの本作はハード・バップの大人気盤。昔ジャズ喫茶でよく見かけた特徴あるジャケット。いいモダン・ジャズに理屈はいらない。とにかくすり切れるくらい繰り返し聴きましょう。パーソネルは、ケニー・ドーハム (tp)、ジャッキー・マクリーン (as)、ボビー・ティモンズ (p)、テディ・スミス (b)、J.C.モーゼス (ds)。United Artists。1962年NYC録音。
やはりジャッキー・マクリーン(1931〜2006)が抜群にいいんですね。角張った、ちょっと窮屈な感じのトーンがグルーヴィーな数フレーズを奏でますともう堪らない。これこれ、これですね。ぐいぐいそそられますね。まあマクリーンがその魅力を発揮できるのも、ドーハムをはじめとする他のメンバーのサポートと中南米雰囲気の曲調のお陰なのですが。
ケニードーハム(1924〜72)は、いつもながらの安定した演奏です。ドス黒いグルーヴを発散させながら、全体のトーンを形作っています。忘れてならないのが、J.C.モーゼスの奔放でポリリズミックなドラミングです。モーゼスはこの時期エリック・ドルフィーともいい録音を残していますね。(→エリック・ドルフィー/イリノイ・コンサート )このドラムがあってこそスリルあるインプロヴィゼーションが繰り広げられるのでしょう。
本作が録音された60年代前半はハード・バップから新主流派という変化の時代。本作がマンネリ化したハード・バップとは一味違うのは、そうした急な時代の潮流に遅れまいとする演奏者らの共通の緊張感のなせる結果なのでしょう。マクリーンは純粋なるバッパーなのですが、この時期バッパーとして一皮剥けた演奏を披露しています。
あと、アーシーなピアノが随所に光るボビー・ティモンズ(1935〜74)のことも忘れてはなりません。ドーハムとはジャズ・プロフェッツからの盟友。その後アート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズで大活躍しましたが本作の62年以降活躍の機会が激減してしまいますね。
本作は、ドーハム、ティモンズ、モーゼスという最高のサポートを得たマクリーンが絶好調のアルト吹奏を聞かせる快心の作品と言えるでしょう。まるで水を得た魚のように自在に吹きまくり、時にモーダルに吹っ切れるマクリーンの魅力がしっかりと刻印されています。
全6曲。4曲目と5曲目がそれぞれマクリーン1管とドーハム1管のカルテット演奏。やはり4曲目のマクリーンのアルトが冴え渡っています。同曲でのティモンズのソロもいいですし、モーゼスの重量級シンバルがまたいいのですね。
1曲目から、ドーハムが好むミディアム・テンポの変拍子調ラテン・テイスト。黒いファンキーな感覚がいいです。マクリーンがすでに少し壊れ気味に大胆なアプローチ。モーゼスの血気盛んなハードなドラミング。テディ・スミスのベースも踊るようにアクセントを決めています。
2曲目はドーハムが得意とするブルージーでスリルある素敵な演奏。マクリーンのソロもカッコいい最高のパーフォーマンス。やはりモーゼスが実に多彩なバッキングで煽り続けます。3曲目はチャップリンの映画主題歌スマイルですね。愛らしいメロディが個人的にも好きですが、ドーハムのキュートなさばき具合が実にいい味。マクリーンのソロも溌剌とした演奏。
1.EL MATADOR
2.MELANIE PART1〜3
3.SMILE
4.BEAUTIFUL LOVE
5.PRELUDE
6.THERE GOES MY HEART
Kenny Dorham (tp), Jackie McLean (as), Bobby Timmons (p), Teddy Smith (b),
J.C.Moses (ds).
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Kenny Dorham / Matador
関連エントリはこちらから。
→ ケニー・ドーハム/静かなるケニ-
→ ケニー・ドーハム/カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム
→ ケニー・ドーハム/アフロ・キューバン
→ ケニー・ドーハム/ショート・ストーリー
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投稿者 Jazz Blogger T : 22:02
ティエリー・ラング/プライベート・ガーデン
JAZZ Piano 4
2012年01月24日
Thierry Lang / Private Garden
最近一番感激してここ1週間ずっと聞いているジャズ・ピアノです。ティエリー・ラングのトリオもの。奥行き感のある品よいタッチ、繊細でしなやかな感性、静かで熱いロマンティシズム。いわゆる癒し系なのですがジャズ特有のきりりとした美意識と緊張感が芸術性を表出しています。パーソネルは、ティエリー・ラング (p)、イヴォール・マレベ (b)、マルセル・パポー (ds)。1993年スイス録音。Plainis Phare。
4曲目のジャイアント・ステップスがまず耳を奪います。コルトレーンの名作が実は非常に美しい音楽であったことがスローテンポによるコード進行を噛み締めることで示されています。何とみずみずしい美しさに溢れた音楽なのでしょう。思わずため息が出る夢見るような心地よい音楽にうっとりさせられます。こんな感動は久しぶりです。
同曲のトミー・フラナガンやテテ・モントリューのピアノ演奏とは全く異質の世界ですね。途中からベース&ドラムを伴いながらミディアム・テンポで壮快に幸福の讃歌を歌い上げます。主題メロディが最後の方にスロー・テンポでほんの少し顔を出して、ああ、ジャイアント・ステップスだったことが思い起こされます。憎いけど素敵すぎる演奏です。
ティエリー・ラング(1956〜)はスイス生まれですでに50代半ばのヨーロッパ中堅実力派ピアニスト。90年代からコンスタントにアルバムを発表していますが、知る人ぞ知るっていう感じでそれほど著名ではないですね。私も昨年はじめて彼のアルバムを聴いて、すぐにお気に入りフェイバリット・ピアニストになりました。その後、今年にかけて彼のアルバムを何枚も聴いてきましたが、本作がその中でも高い完成度のアルバムであると感じています。
ジャイアント・ステップスがあまりに印象深いので、とにかくそれを書くという勢いで書いていますが、他の曲にもそれぞれに味わいがあってよい具合なのです。ラングのピアノには、ビル・エヴァンスに通じる深い静による恍惚があり、エンリコ・ピエラヌンツィに近い流麗なエレガンスがあります。
1 A Ster To My Father
2 Nunzi
3 Stella By Starlight
4 Giant Steps
5 Boulevart Perolles
6 Private Gerden
7 I Hear A Rhapsody
8 Nane
Thierry Lang (p), Ivor Malherbe (b), Marcel Papax (ds).
YouTubeからLangさんにご登場願いましょう。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Thierry Lang / Private Garden
関連エントリはこちら。
→ ティエリー・ラング/リフレクションズ I
→ ジョン・コルトレーン/ジャイアント・ステップス
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:02
レニー・トリスターノ/鬼才トリスターノ
JAZZ Piano 4
2012年01月15日
Lennie Tristano / Tristano
クール・ジャズで有名なレニー・トリスターノの代表作と知られる名作。地味ながらその調和のとれた端正な風情が確かにいいんですね。淡白であっさりとしたいわゆる飽きの来ない魅力があります。粋なジャズBGMとしては最高の1枚かもしれません。パーソネルは、レニー・トリスターノ (p)、リー・コニッツ (as)、ジーン・ラメイ、ピーター・インド (b)、アート・テイラー、ジェフ・モートン (ds)。1955年録音。Atlantic。
レニー・トリスターノ(1919-78)は盲目の白人ピアニスト。クール・ジャズというムーブメントがバップからハード・バップに移る時期の1940年代後半から50年代前半にありました。その代表選手がこのレニー・トリスターノとその一派ですね。
ビル・エヴァンスやデイブ・ブルーベックはじめその後の白人著名ジャズマンが大勢いますが、黒人のジャズとは明らかに異なる雰囲気、その白人(正確にはユダヤ人と言い切った方がより正しいのかもしれません)のイカしたジャズの原点を形作ったのがレニー・トリスターノであったと言えるのでしょう。あのマイルス・デイヴィスもまさにその影響下に独自のジャズ・スタイルを築き上げたと言って過言ではありません。
しかしながら、クールと一括りにした場合はそうであっても、個別的に見ればトリスターノ派のジャズは孤高のそれであり、クールの先鞭をつけたという意味では先駆者なのでしょうが、その個性を受け継いだのは、L.コニッツ、W.マーシュ、P.インド、B.バウアー、J.モートンら直系のジャズマンのみでした。適切な例ではないですが、ネアンデルタール人が現代人の祖先でなく、現代人とは支流の関係にある別の種ということに今の学説は落ち着いていますが、混血があったりということでは少なからず影響を与えているようです。トリスターノ一派は、そういう意味では、モダン・ジャズのクールという分野の先駆者には違いないのですが、その先は別れて細い支流になってしまったということだと思われます。
ところで、cool っていう英語は、格好いいとかイカしたという意味で使われますが、ここで使われているクール・ジャズという表現も、ソウルとかセンチメントとかの情念世界とは対極にある、さらりと凛とした涼やかな雰囲気を示す、やはり粋で格好いいということに繋がっているのだと思います。
トリスターノ派のクール・ジャズの中で最もポピュラリティの高い作品を残してきたのはアルト・サックス奏者のリー・コニッツです。トリスターノが残した作品が決して多くないので仕方ないのでしょうが、やはりトリスターノのピアノ演奏は独特の雰囲気があります。コニッツ名義の名作「サブコンシャス・リー」では当然ながらトリスターノがリーダーのような感じですね。
全9曲。前半4曲がピアノ・トリオ、後半5曲がライブでコニッツを含むカルテット演奏です。前半のトリオ演奏はトリスターノの典型的個性的な演奏が聞かれます。その中低音域を中心とした明晰で冷徹な音の連なりが新鮮です。このアドリブ・ラインはまさにコニッツのそれであることが思い起こされます。1、3、4曲目はまさにそういうトリスターノですね。
2曲目はブルース曲。トリスターノのブルース演奏というとこんな風になるのですね。やはり感情を極力排したものですが、それでもメロディ・ラインから感じられるフィーリングはブルースのそれであり、これも十分ありだと思われます。
コニッツが加わった後半の5曲は、コニッツが他の作品で表現してきたものの上質なものが示されていると言えるでしょう。私はこれらの演奏が好きです。ジャズ史的には前半の演奏が価値あるのでしょうが、後半5曲はそういう意味では、トリスターノ御大が自ら参加したにもかかわらず、ライブ聴衆を意識した寛いだセッションという印象です。
コニッツの加わった演奏は、前半の求道的な要素が無く、エンターテイメントとして十分に楽しめるものになっています。55年の録音ですので、ハード・バップが全盛になりつつある時期だけに、コニッツのアルト吹奏には、クール一辺倒ではない明らかに温かい情が音楽の中に宿っています。トリスターノのピアノにもずっと小さいながら同様なものが感じられます。
やはりコニッツのくすんだアルトの音色と独特ながら愛らしいメロディ構築が魅力です。トリスターノのピアノは明らかに通常の冷厳な演奏とは異なるエンターテイメントを前面に押し出した分かり易い演奏になっています。それがなかなかよい感じなのですね。クール的な中に適度な温もりがあって聞き易いジャズなのですね。BGMに流しておくのに丁度よい具合なのではと思います。
1. Line Up
2. Requiem
3. Turkish Mambo
4. East Thirty-Second
5. These Foolish Things
6. You Go To My Head
7. If I Had You
8. Ghost of a Chance
9. All The Things You Are
YouTubeから1965年当時のソロ演奏をピック・アップしてみました。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Lennie Tristano / Tristano
関連エントリはこちらから。
→リー・コニッツ/サブコンシャス・リー
→リー・コニッツ/モーション
→リー・コニッツ/ヴェリー・クール
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投稿者 Jazz Blogger T : 01:08
ティエリー・ラング/リフレクションズ I
JAZZ Piano 4
2011年12月31日
Thierry Lang / Reflections I
ティエリー・ラングというピアニストのことをご存知でしょうか。スイス出身のジャズ・ピアニスト。ジャズ・ファンの
方ならきっとご存知の方も多いに違いありません。私にとっては本作が初めてのラング体験。その深く濃厚なリリシズム溢れるピアノに魅せられてこのところ繰り返し聞いています。パーソネルは、ティエリー・ラング (p)、へイリ・ケンジッヒ (b)、ペーター・シュミドリン (ds)。2003年録音。i.d.Records。
ティエリー・ラング(1956~)はスイス出身のジャズ・ピアニスト。ビル・エヴァンスの流れを汲む思索的な粘っこいピアノ・タッチとヨーロッパのピアニストらしい耽美的で清澄感のあるリリシズムが印象的です。単に甘く優しいというだけでなく、ジャズ・ピアニストが基本的に具備すべきジャズ魂やメロディック・センス、それにそれらを表現できるテクニックがありますね。従って、当然のごとくにハイレベルなジャズを味わわせてくれることになるのです。
音楽探検を続けていてよかったと思うことがたまにありますが、ティエリー・ラングとの出会いは後年になってみるときっと今年一番の収穫になっているのかもしれません。新たな音源を求めなくても今の守備範囲内でそこそこに楽しめているわけなのですが、貪欲にハングリーに探検していますと、やはり確実にヒットしていくのだと思いますし、それがそうした努力の継続の賜物だと思っています。求めるものに出会うべくして出会うというのは現代のような世界的情報社会では当然のことに違いありません。
例えば、6曲目 Moon Princess に聞かれる深い情感は音楽、特にジャズでこそ得られる最高の悦楽の一つであると私は信じており、この種のジャズにずっと憧れを持って待ち望んでいたことを思い知らされています。エヴァンスはじめ、デニー・ザイトリン、エンリコ・ピエラヌンツィ、スティーヴ・キューンら私が敬愛するジャズ・ピアニスト達に終始求め続けてきたある特定のリリシズムがここにはしっかりと根付いていることを発見するのです。
4曲目 Private Garden や5曲目 Waiting For A Wave、それに8曲目 Nostalgie らはミデイアム・テンポの流麗な音列が清涼感とその中に潜むラングの美意識を感じさせてくれます。ピエラヌンツィに通じる上品で優美な感性。ヨーロッパのジャズ・ピアニストが持つ最も良質な部分。淀みなく流れる魅惑のパッセージの連続はブルース精神と対極にあるけれど同種のグルーヴ感を醸し出しています。
1. Le Sablier
2. Three Lines
3. Wounds
4. Private Garden
5. Waiting For A Wave
6. Moon Princess
7. Your Notes
8. Nostalgie
Thierry Lang (p), Heiri Kaenzig (b), Peter Schmidlin (ds).
YouTubeからトリオ演奏をピック・アップしてみました。佳曲ミディアム・テンポの軽快な演奏。溢れ出る美的センスにとても共鳴するとともに、ジャズ・ピアノの愉しみを感じて心浮かれてきますね。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Thierry Lang / Reflections I
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投稿者 Jazz Blogger T : 10:39
ジェリー・マリガン/マリガン・ミーツ・モンク
JAZZ Sax 3
2011年12月25日
Gerry Mulligan / Mulligan meets Monk
ジェリー・マリガンとセロニアス・モンクが共演する世評高い作品をご紹介します。録音時57年後半のモンクはコルトレーンとの歴史的な共演を果たしておりもっとも好調な時期と言えるでしょう。ジャズの本質がよく見えてくるアルバムではないかと思っています。パーソネルは、ジェリー・マリガン (bs)、セロニアス・モンク (p)、ウィルバー・ウェアー (b)、シャドウ・ウィルソン (ds)。1957年NY録音。Riverside。
ジェリー・マリガンはバリトン・サックスの第一人者として著名ですね。困難な楽器を吹きこなすという点では若くして夭逝したサージ・チャロフの方が恐らく上なのでしょうが、いかんせんチャロフには残された作品が少な過ぎました。また、エリントン楽団のハリー・カーネイも有名ですね。ライブ演奏でのエリントンはいつもソロ奏者の名前を口頭で紹介するので主要メンバーの名前はいやがおうにも記憶に残りますね。
私にとってのマリガンのアルバムといえば、長く愛聴した「パリ・コンサート」をまず挙げることになるのですが、レコードのみでCDでの発売がないようなのですね。54年の録音で、ボブ・ブルックマイヤーとの2管編成。典型的なビ・バップでもあり、マリガンの朴訥気味の吹奏が魅力ですね。この朴訥だけれど紡がれる音列に味があるので、その旨味を知ると病み付きになってしまうのですね。マリガンにはそうした独特の雰囲気があると思うのです。
本作はそうしたいわば同類とも言えるマリガンとモンクの組み合わせですから、その特徴が倍加されているということになりますね。洗練とか流暢さは微塵もなく、訥々とした語り口で語られるジャズがここにあるのですが、その演奏から得られる心地よさはまさに極上のジャズ体験と言えるものに違いありません。心に訴えるものは決して楽器演奏テクニックの上手下手が主な要素でないということが分かるというものです。
現代のジャズ・プレイヤーの水準からすると考えられないことですが、モンクやマリガンらの個性は際立っています。それと、バリトン・サックスの音色が面白いということも一つありますね。吹く強弱によって音色が微妙にコントロールされているようです。強く吹く時に音が割れる感じが私は特に好きなんですね。
全9曲。別テイクが入っていますので実質的には6曲になります。聞き慣れたモンクの曲が中心ですね。1曲だけマリガンの曲。全体に不思議と飽きが来ないのですね。BGM的に流していてもいいですし、じっくりと聴き込むことも可能です。
マリガンのバリトンの調べというか音色に郷愁があっていいですね。3曲目 Sweet and Lovely がその不可思議だけど愛らしいメロディと不器用そうなバリトンの組み合わせが面白いですね。バリトンサックスの魅力って、不細工だけどそれが可愛らしく思えるというフレンチドックやボストンテリアらの愛玩犬の魅力に通じるものがあるように思われますがいかがでしょうか。
1. 'Round Midnight
2. Rhythm-A-Ning
3. Sweet And Lovely
4. Decidedly (Take 4)
5. Decidedly (Take 5)
6. Straight, No Chaser (Take 3)
7. Straight, No Chaser (Take 1)
8. I Mean You (Take 4)
9. I Mean You (Take 2)
Gerry Mulligan (bs), Thelonious Monk (p), Wilbur Ware (b), Shadow Wilson (ds).
NYC, August 12, 1957,
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Gerry Mulligan / Mulligan meets Monk
関連エントリはこちらから。
→ジェリー・マリガン/ナイト・ライツ
→ジェリー・マリガン/アット・ストリーヴィル
→ジェリー・マリガン&ポール・デスモンド/ブルース・イン・タイム
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投稿者 Jazz Blogger T : 21:38
アート・ファーマー/アーリー・アート
JAZZ Trumpet 2
2011年12月23日
Art Farmer / Early Art
アート・ファーマーのトランペットの凛とした佇まいが好きなんですね。本作は1954年録音でファンキー前夜のバップ系ファーマー本来の静かに歌うトランペットの響きが魅力的。哀愁とグルーヴ感のある最高に素敵なジャズです。パーソネルは、アート・ファーマー (p)、ソニー・ロリンズ (ts)、ホレス・シルバー (p)、パーシー・ヒース (b)、ケニー・クラーク (ds)、ウィントン・ケリー (p)、アジソン・ファーマー (b)、ハービー・ラブレ (ds)。1954年NY録音。Prestige。
アート・ファーマー(1928〜99)は派手さはないですが安定した渋い腕達者で訥々とした哀愁ある吹奏で忘れがたい印象を残しています。私にとってワン・ホーン・アルバム「アート」が学生時代からの愛聴盤です。本作はそれに匹敵するファーマーの魅力に溢れたアルバムと言えましょう。ソニー・ロリンズが3曲のみ参加していますが、ほとんどファーマーのワン・ホーン作品という印象です。
全10曲。前半5曲がロリンズとホレス・シルバーらとの、後半5曲がウィントン・ケリーらとの共演になります。4曲目と5曲目のバラッド演奏が当時のファーマーの典型的な演奏で素晴らしいですね。抑制された丁寧な指使いで静かに朗々と歌います。シルバーのピアノのサポートも可憐でgood。
6曲目以降の後半はファーマーとウィントン・ケリーががっぷり四つに組んだ最強のモダン・ジャズ。6曲目は快調なミディアム・テンポの佳曲。ファーマーの魅力はこの種のキュートな歌もので存分に発揮されますね。ウィントン・ケリーのグルーヴィーなソロも好印象。7曲目のバラッドでは安定したファーマー節が聞かれます。数コーラスのアドリブ展開が渋くて素敵です。
8曲目風と共に去りぬでは早い目のテンポで颯爽と吹き抜けてゆきますね。ケリーのソロも含めて典型的なハード・バップ演奏が実に心地よい。9曲目はブルージーなバラッド。ファーマーの哀感あるトランペットとケリーのグルーヴなピアノがいずれも素晴らしい最上級のもの。
1. Soft Shoe
2. Confab In Tempo
3. I'll Take Romance
4. Wisteria
5. Autumn Nocturne
6. I've Never Been In Love Before
7. I'll Walk Alone
8. Gone With The Wind
9. Alone Together
10. Pre Amp
Art Farmer (tp), Sonny Rollins (ts), Horace Silver (p), Percy Heath (b), Kenny Clarke (ds), Wynton Kelly (p), Addison Farmer (b), Herbie Lovelle (ds).
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Art Farmer / Early Art
関連エントリはこちらから。
→アート・ファーマー/アート
→アート・ファーマー/モダン・アート
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投稿者 Jazz Blogger T : 11:08
ジェシ・ヴァン・ルーラー/ライブ・アット・マーフィーズ・ロウ
JAZZ Guitar 1
2011年12月22日
Jesse van Ruller / Live at Murphy's Law
今夜はお気に入りのジャズ・ギタリストのジェシ・ヴァン・ルーラーですね。トリオ演奏のライブ盤。最高に渋いジャズ。ギター・トリオでのライブ演奏がジェシの実力からすると最もフィットしていると思います。パーソネルは、ジェシ・ヴァン・ルーラー (g)、フランツ・ヴァン・デル・ホーヴェン(b)、マタイン・ヴィンク(ds)、ヨス・マクテル(b)、ヨースト・ヴァン・サイク(ds)。2004年オランダ・ハーグ録音。55 Records。
ジェシ・ヴァン・ルーラーは私にとって最もお好みのジャズ・ギタリスト。昨年ご紹介した「ヨーロピアン・クィンテット」 は1994年録音のデビュー盤ですね。若手ジャズマンの登竜門として著名なセロニアス・モンク・コンペティションで優勝した逸材。
静かな夜に一人の時間を満喫する際に聴くにはもってこいの素敵すぎるジャズです。単に甘いだけでなくて、ジャズ本来のスリルのあるところが渋いのですね。繊細で多彩な技能と歌心で華があり聴衆を決して飽きさせません。
ピアノのないベースとドラムのトリオ演奏の方がより自由な演奏ができるのでしょう。ジェシのギターが全編に渡って縦横無尽に歌います。そういう意味で最高のパーフォーマンスが繰り広げられているのです。
全8曲。選曲もいいですね。1曲目にエリントン「極東組曲」から佳曲 Isfahan がくるところが凄いですね。ビル・チャーラップのアルバムでも取り上げられていて意外な感じに驚きましたが、ここでのジェシのミディアムテンポの演奏は1番手として実にしっくりとぴたりと嵌っている感じがします。漂う哀愁感とさらりとしたクールさは、ジョニー・ホッジスの麗しいアルトサックスの調べとはまた違った魅力に溢れています。
どの曲の演奏も素晴らしいの一語に尽きます。もう聞き惚れてしまう類の素敵なギターです。バラッドでは 7曲目 Goodbye がいいです。美しく悲しい調べの中にほのかな光と慰めが感じられます。後半のアドリブ・ラインが渋くてかっこいい。とても癒されます。
2曲目 Along Came Betty の少しロック調のセンスが現代的な新しさを感じさせてくれます。3曲目 The End of a Love Affair にはギター、ベース、ドラムの3者が一体となった濃密な空間があります。8曲目 Sandu はクリフォード・プラウン作のブルース系の曲。ノリのよいアドリブが冴えています。
1. Isfahan
2. Along Came Betty
3. The End of a Love Affair
4. Detour Ahead
5. Get Out of Town
6. Nobody Else But Me
7. Goodbye
8. Sandu
Jesse van Ruller (g), Frans van der Hoeven (b), Martijn Vink (ds), Jos Machtel (b), Joost van Schaik (ds). Recorded in 2004 at Murphy's Law, Hague, Netherlands.
YouTubeから2004年当時の同様なトリオ演奏をピック・アップしてみました。本CDとよく重なる繊細で美的な演奏です。
VIDEO
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Jesse van Ruller / Live at Murphy's Law
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投稿者 Jazz Blogger T : 23:10
ヘンリー・マンシーニ/ピンク・パンサー
_Popular Music
2011年12月20日
Henry Mancini / Pink Panther
こんばんは。今日は2年ほど前に知り合った大好きな映画音楽から。ヘンリー・マンシーニは恐らくは古き良き映画音楽の一番の巨匠と言っても過言ではないでしょう。サントラ盤はいずれも鑑賞用ミュージックとしても高水準にありますね。ピンク・パンサーはマンシーニの代表作の一つであり、そのジャズ的なフィーリングを楽しめる最高に豊かでゴージャスなお薦め音楽。1963年録音。
映画音楽の作曲家には大好きな音楽家が何人かいます。ヘンリー・マンシーニ、ニーロ・ロータ、ミシェル・ルグラン、フランシス・レイ、バート・バカラック、エンリオ・モリコーネなど。中でもヘンリー・マンシーニ(1924〜94)は多くの著名なメロディを世に送り出しています。
例えば、50年代〜70年代では、58年「黒い罠」61年「ティファニーで朝食を」61年「ハタリ!」62年「酒とバラの日々」63年「シャレード」63年「ピンク・パンサー」64年「男性の好きなスポーツ」65年「グレートレース」66年「アラベスク」66年「地上最大の脱出作戦」67年「いつも2人で」67年「暗くなるまで待って」70年「男の闘い」70年「ひまわり」71年「わが緑の大地」74年「ザッツ・エンタテインメント」75年「華麗なるヒコーキ野郎」などがありますね。
「ティファニーで朝食を」はムーンリバーで超有名ですし、「酒とバラの日々」はジャズでもよく演奏されるスタンダードな曲、「シャレード」や「ひまわり」はその美しいメロディに誰しも聞き覚えがあることでしょう。また、「ピンク・パンサー」の主題曲はまさに映画音楽の代表選手のような魅力的で斬新な音楽ですね。
さて、ピンク・パンサーの主題曲は有名ですし素敵な曲なのですが、実は私の興味はそれ以外にありまして、言わば、主題曲は掴みの役割を果たしておりまして、奥の方でひっそりと咲く可愛い小花の魅力を伝えることが本日の目的になりますね。
ヘンリー・マンシーニは自身ピアノやサックスを演奏したということで、メロディ・メーカーであるだけでなく、楽器の使い方に巧みがあったと思われます。人声コーラス、オーケストレーション、サックス、ハーモニカなどに特徴と魅力があります。「ティファニーで朝食を」でもふんだんに使われたあの温かいコーラスの響きはマンシーニ世界を象徴する香り豊かな雰囲を醸し出しています。
さて、ピンク・パンサーのサウンド・トラック盤である本作品には全16曲が納められています。私のお好みは、まずは、3曲目の少しけだるいけれど優しく哀愁のあるトランペットによるメロディラインと弦楽器と女性コーラスのため息の出るような柔らかな響きが素敵ですね。ハーモニカもいいです。
4曲目はいかにも画像の背景に流れてそうなマンシーニらしい曲想。男性コーラスのロマンス感のあるニュアンスもいいです。10曲目は主演のピーター・セラーズのために作られたラテン調の明るい曲想。エキゾティックなジャズの香りが素敵。こうしたラテン感覚もマンシーニはお得意の筆さばきのようでしたね。
11曲目はもっともお気に入りの曲。ピアノの響きが好きです。クロード・ソーンヒルを思わせる静かだけれど限りなく優しく慈悲深いメロディ・ライン。バックのオーケストレーションも美しいもの。恋をしている時に聞けばきっと涙するような素敵な曲でしょう。
1. The Pink Panther Theme
2. It Had Better Be Tonight (Instrumental)
3. Royal Blue
4. Champagne And Quail
5. Village Inn
6. The Tiber Twist
7. It Had Better Be Tonight (Vocal)
8. Cortina
9. The Lonely Princess
10. Something For Sellers
11. Piano And Strings
12. Shades Of Sennett
13. The Return Of The Pink Panther (Parts I & II)
14. The Greatest Gift (Instrumental)
15. Here's Looking At You Kid
16. Dreamy
YouTubeから1本ここにアップしておきましょう。ヘンリー・マンシーニが自ら指揮する演奏です。
VIDEO
実はこの音楽には深い思い入れがあります。だいぶ以前に知り合った人から借りたCDなのですが、それほど興味もなくたまたまああ知ってる知ってるというノリで聞いた主題音楽なのですが、その後ろの方に素敵な曲がひっそり佇んでいるのを発見したのですね。それはその人がまさにそんな印象であって、知るほどに魅力を増すという点でいつまでも忘れられない、そんな思い出のある人&音楽との出会いだったのです。
詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Henry Mancini / Pink Panther
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投稿者 Jazz Blogger T : 23:13
マックス・イオナータ/コーヒー・タイム
JAZZ Sax 3
2011年12月12日
Max Ionata / Coffee Time
現代イタリアを代表するテナー・サックス奏者マックス・イオナータの快心のアルバムを紹介しましょう。ファブリツィオ・ボッソをゲストに加え、ルカ・マンヌッツァがピアノでなくハモンド・オルガンを奏するカルテット演奏。これぞ21世紀の今を感じさせ最高のモダン・ジャズではないかと聞き惚れてしまいます。パーソネルは、マックス・イオナータ(ts)、ファブリツィオ・ボッソ(tp)、ルカ・マンヌッツァ(p)、ロレンツォ・トゥッチ(ds)。2010年ローマ録音。Albore Jazz。
マックス・イオナータがリーダーということで、同じネオ・ハードバップ路線とは言えファブリツィオ・ボッソやルカ・マンヌッツァのリーダーものとは多少違ったものになっていると思われます。ハモンド・オルガンを使っていることもあるのですが、単純なファンキーではなくて、新鮮な感覚が明らかに付加されています。
ルカ・マンヌッツァのオルガン演奏はピアノ演奏とはまったく別物のような印象です。足でベースを刻んでいるのでしょう、アドリブ・ラインは右手1本のシングルトーンに聞こえます。ハモンドオルガンのベース音はあの空気が震えるような重厚な音圧感が個人的に好きなのです。マンヌッツァの演奏は、ジミー・スミスのような陽性のファンキー一辺倒ではなくて、渋めにグルーヴするラリー・ヤング系です。
それにしても、ボッソのテクニックというのは恐るべしというか、手の届かない痒いところをいとも簡単に吹き抜けてしまうのですね。自在に操られるアドリブ・ラインは圧倒的なものです。イオナータは太く豪放な演奏がやはり魅力ですが、リーダーとして抑え気味というかよくコントロールされた知的な演奏を行っています。
本作はフロントの二人が全くもって素晴らしいこと、曲想がモーダル調でバップやファンキーというワンパターンを感じさせないこと、オルガンの渋いバッキング、8ビートのハードドライビングなドラミングのバッキングなどなど、今を感じさせる高密度ジャズです。
昔1960年代にマカロニ・ウェスタンというイタリア製西部劇が流行しました。「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」など懐かしい映画がありました。ジュリアーノ・ジェンマやクリント・イーストウッドらの名優を生み、またエンリオ・モリコーネの哀愁ある音楽が著名ですね。西部劇というのは米国の開拓時代の話で、日本でいえばチャンバラ物や銭形平次、水戸黄門のような位置に当るのですが、なぜかその伊製西部劇が本国の映画以上に世界的にヒットしたわけですね。
今のイタリア・ジャズ界のムーブメントというのは、50年代60年代ハードバップ〜新主流派モード路線のモダン・ジャズの本流を約50年を経て現代風かつ正統的に再現しているという点で何やら似たような構図が見えるわけです。本家を凌ぐ出来映えを示すことが当然に起ってしまうのですから、ここでのボッソ、マンヌッツァ、イオナータらは将来名演奏家としてジャズ史に残って行くのかもしれません。
全9曲。どれも素敵な演奏です。まず1曲目はミディアム調の明朗な曲想で快適なソロが続きます。オルガン伴奏の独特の雰囲気が面白いですね。古さを感じさせない、何か斬新な感覚があるのです。また、3曲目はカリプソ風で明るい陽光が降り注ぐ浮き浮きしてくる演奏であり、ボッソのトランペットの魅力が存分に味わえる演奏。
6曲目がまたクールなジャズです。ロック調のオルガンとドラムのハードで粘っこいバッキングが現代を感じさせてくれますね。マンヌッツァのソロ演奏が素敵です。スティーブ・キューン70年代のローズの演奏を思い起してしまいます。7曲目 Mona Lisa がアップテンポの快演。イオナータのテナーが力強くていい感じ。
8曲目スタンダード曲 All Blues でのマンヌッツァのオルガン演奏がファンキーに弾けています。イオナータがまた渋いソロをとってくれます。9曲目は最後を締める静かなバラッド。オルガン伴奏の雰囲気が素敵です。
1. Coffee Time (Max Ionata)
2. In 'n' Out (Joe Henderson)
3. Donna (Gorni Kramer)
4. Kiss (Prince)
5. E.S.C. (Luca Mannutza)
6. Safari (Luca Mannutza)
7. Mona Lisa (Max Ionata)
8. All Blues (Miles Davis)
9. Chan's Song / Dedicated to Gianni Basso (Herbie Hancock)
Max Ionata (ts), Fabrizio Bosso (tp, flh), Luca Mannutza (org), Lorenzo Tucci (ds).
Recorded in Roma, 2010.
YouTubeからマックス・イオナータの映像をアップさせていただきましょう。渋めの演奏です。ドラミングがやはりいい具合で好きです。ルカ・マンヌッツァのピアノもデリケイトないいソロをとっています。
VIDEO
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投稿者 Jazz Blogger T : 00:11
アントニオ・ファラオ/ソーン
JAZZ Piano 4
2011年12月11日
Antonio Farao / Thorn
最近はじめて聴いたイタリア人ピアニスト、アントニオ・ファラオの作品を紹介しましょう。現ジャズ界において、中堅どころでは最も注目されている実力派ピアニストの一人、アントニオ・ファラオの2000年の録音。テクニックに裏打ちされた感性と音楽性が高いレベルで表出された上質で豊かなジャズ音楽です。パーソネルは、アントニオ・ファラオ(p)、クリス・ポッター(sax)、ドリュー・グレス(b)、ジャック・デジョネット(ds)。2000年NY録音。Enja。
アントニオ・ファラオ(1965〜)は、98年に初リーダー作「Black Inside」以降、次々とリリースされる作品を通じて、今最も旬のジャズ・ピアニストの一人と目されているようですね。私にとっては本日エントリの「ソーン」がファラオ初体験になるのですが、何度も聞き返してはその評判に違わぬ優れたピアニストという認識を持ちつつあります。
このところ、イタリア・ジャズを集中的に聴く毎日を過ごしています。2000年以降のイタリア・ジャズ界はその才能あるタレント達の活躍と彼らが創り出す高品質のアルバム群によって、それはまさに世界の中心的な発信地になっているようですね。
ピアニストでは、アントニオ・ファラオ(1965〜)、ルカ・マンヌッツァ(1968〜)、ステファーノ・ボラーニ(1972〜)らがこの世代に当り、その前の世代には、著名なエンリコ・ピエラヌンツィ(1949〜)やレナート・セラーニ(1958〜)がいますね。
私の最近の興味は、特にルカ・マンヌッツァとアントニオ・ファラオの2人にあり、彼らがどんなピアニストであり、どんな音楽を作り出そうとしているのか、その辺りのことを明らかにしたいと思っていまして、その探索は始まったばかりです。
マンヌッツァは、ファブリツィオ・ボッソやマックス・イオナータらと共に50年代60年代のハード・バップや新主流派の典型的な王道モダン・ジャズ路線を、自分達の理想とする現在最高の洗練さて持って再構築しているように見えます。
アントニオ・ファラオについては、本日現在、私はまだ本作しか聴いていない状況ですので何も言えないと思いますが、やはり何と言うか、その磨き抜かれた技量と音楽性に立脚して、モダン・ジャズの持つ普遍的な魅力を極めたい、あるいは、その高みに達したいという、強靭な魂や意志を感じますね。
ファラオのピアノは時に激しくパワーとテクニックで聴く者を圧倒するような力があります。本作ではジャック・デジョネットが加わることでそれを後押ししていますね。それとは対照的に、数曲の学曲においては、鎮静した美しく粘っこい演奏が繰り広げられています。この深い思索的なピアニズムが私的には非常に魅力的です。
全9曲。トリオ演奏とマルチ・サックス奏者のクリス・ポッターが加わったカルテット演奏があります。一番印象に残った演奏は4曲目 Epoche です。ポッターのソプラノ・サックスとファラオのピアノが織りなす退廃的なムードが素敵です。神秘的というか悪魔的というか、音楽には何らかの隠された暗部のようなものがあると一層魅力的になるものなのです。クラシックでは作曲家のスクリャービンが、また、ジャズ界でもウェイン・ショーターがそれを的確に示しています。
女性のイニシャルと思われる曲名の7曲目 B.E. が次に好きです。エヴァンス・ライクな内省的な美しいバラッド演奏です。ファラオのピアノには、ジャズ・ピアノが持つべき香(かぐわ)しい芳香がありますね。少し強めの体臭の方がクセになるというか、引きつけて止まないものがありますが、それほどでもなく中庸で適度な感性を感じます。
9曲目も同様な路線で、ファラオがヨーロッパのピアニストであることを思い起こさせる内容です。短調のメロディが品よく流麗に紡がれてゆくエレガントなピアノです。2曲目 Time Back もやはりトリオ演奏ですが、デジョネットのエンカレッジングなバッキングを伴って、ファラオのピアノが縦横無尽にジャズ的奔放さとしなやかな音楽性を披露してみせます。これぞジャズという素敵なジャズ・ピアノです。
1. Thorn
2. Time Back
3. Preludio
4. Epoche
5. Caravan
6. Arabesco
7. B.E.
8. Tandem
9. Malinconie
Antonio Farao (p), Chris Potter (sax), Drew Gress (b), Jack DeJonnette (ds).
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投稿者 Jazz Blogger T : 11:55