メイン・ページ > JAZZ Trumpet > ケニー・ドーハム/ショート・ストーリー

ケニー・ドーハム/ショート・ストーリー

JAZZ Trumpet

2011年05月04日

Kenny_Dorham_Short_Story Kenny Dorham / Short Story

 今日はケニー・ドーハムのヨーロッパでのライブ盤から。欧州若手ジャズマンとのハード・バップの醍醐味が直に伝わってくる快演です。やはりこういうメインストリームのジャズらしいジャズが心地よいですね。若きテテ・モントリューのピアノがひと際光っています。パーソネルは、ケニー・ドーハム(tp)、アラン・ボッチンスキー(flh)、テテ・モントリュー(p)、ニールス・ヘニング・ペデルセン(b)、アレックス・リール(ds)。1963年コペンハーゲン録音。Steeplechase。

 ジャズ関係の書籍や評論を最近はほとんど読まなくなったが、ジャズに興味を持ち出した頃は羅針盤というか指針となる情報を求めていろいろな文章を読んだものです。信頼してその意見に耳を傾けられる方はごく少数で、粟村政昭氏と後藤雅洋氏の2名が印象深く今でも参考にさせてもらっています。粟村氏は、「ジャズ・レコード・ブック」、「モダンジャズの歴史」という書と多くのレコードのライナーノーツによって、後藤氏は、多くの雑誌はじめ書籍によって、いずれもその感性自体への信頼(この人の薦めるものは自分も確かにいいと感じるという類)と、同時に自身の感性に自信がありそれのみで勝負していること、さらにはその感性の表現が論理的というか説得力があることです。個人的な感覚を的確に表現することは、私もこのブログの中で苦労しているので少しは分かるつもりですが、恐らくはそう容易(たやす)いものではなくて、客観性のある分析力とともに本質を見る確かな眼も必要となることでしょう。

 本作品のライーナーノーツが後藤氏によって書かれているので前置きが長くなってしまいました。後藤氏は79年発売の本作においてケニー・ドーハムの魅力に開眼するとともに、本作の出来を相当に高く評価されているのです。そういえば粟村氏もトランペッター、ケニー・ドーハムについてほとんど評価していないことが上記の書籍の中に明瞭に記載されていますが、私はこの点について、意外な印象でありここは自分とは少し違うなとずっと思っていました。もちろんマイルスやクリフォード・ブラウンら偉大なジャズマンとの差は大かもしれませんが、ドーハムのハード・バッパーとしての力量は当時の50年代トランペット奏者の中でも指折りの代表選手と私は思っていますし、その渋くブルージーな演奏の魅力は日本人好みの独特の味わいがあると感じてきました。その意味で後藤氏のライナーを読んで少しほっとしたようなところがあるのです。

 本作はケニー・ドーハムがヨーロッパ、コペンハーゲンに渡り、若手ミュージシャンと競演したヨーロッパ生まれながら純粋で痛快なハード・バップ・アルバムです。テテ・モントリューやニールス・ペデルセンという後年ビッグネームとなる気鋭の若手がサイドを固めており、ドーハムの演奏が素晴らしいのはそうした優れた若手を背後に控えてさぞかし頑張ったからに違いないと感じさせるものがあります。

 ドーハムのことばかり書いていましたが、実は、私はこのアルバムの魅力について、テテ・モントリューのことをもっとたくさん書きたいのですね。ここでのテテ・モントリューのピアノが実に素晴らしいのです。63年ということで、55年頃から60年頃に米東海岸を中心にもてはやされたハード・バップの熱気がヨーロッパではまだまだ新しい音楽として認識されており、その中で若手の欧州ジャズマンは本場米国のジャズに負けない典型的なバップを聞かせてくれているのです。特にテテ・モトリューのピアノが繰り出す溌剌としたメロディアスなアドリブの連続にはその才能が一目瞭然であることを示すに十分な魅力が溢れています。明確で饒舌なタッチと尽きないメロディ・センス、これらは後年の活躍を明らかに予言するものです。

 盲目のピアニスト、テテ・モントリューのことはすでにこのブログでも何度か書いていますが、スペイン出身でパッションに溢れ天才的なテクニックを持つメロディストという印象です。ここでの存在感は圧倒的と言えるもので、すでに個性が十分に発揮されていると思われます。また、ニールス・ペデルセンも随所に速弾きのベース・ソロを聞かせており、一流の証を示すに足るものです。トランペットとフリューゲル・ホーンという変わったフロントではありますが、それぞれに特徴があって特に違和感はありません。

 全5曲。いずれも素敵な演奏と言えるものです。ドーハムのソロがメリハリがあってチャーミング、そして尽きないアイデアが頼もしい限りですね。耳を傾けていると本当に心の底から嬉しくなってくるようなジャズです。これぞ典型的なジャズの愉しみというヤツでしょう。ライブであることも一役買っていることでしょう。実にノリがよいですね。

1. Short Story
2. Bye Bye Blackbird
3. Manha De Carnival
4. The Touch Of Your Lips
5. My Funny Valentine

Kenny Dorham (tp), Allan Botchinsky (flh), Tete Montoliu (p), Niels-Henning Orsted Pedersen (b), Alex Riel (ds). Recorded at Copenhagen in 1963.

 YouTubeから当時のドーハムの演奏をピックアップしましょう。1963年ストックホルムでのライブ演奏。1曲目は本アルバムと同じ曲 Short Story です。雰囲気は近いですね。渋くて黒っぽいドーハムらしいグルーヴィーなジャズです。


 詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Kenny Dorham / Short Story

 関連エントリはこちらから。
 →ケニー・ドーハム/静かなるケニ-
 →ケニー・ドーハム/カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム
 →ケニー・ドーハム/アフロ・キューバン
 →テテ・モントリュー/テテ
 →エリック・ドルフィー/アット・ザ・ファイブ・スポットVol.2

投稿者 Jazz Blogger T : 22:33 | トラックバック

« エリック・ドルフィー/イリノイ・コンサート | メイン | エマニュエル・アックス/ハイドン・ピアノ協奏曲 »

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://dellton.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1031

Copyright (C) 2004-2014 MY FAVORITES All Rights Reserved.