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レニー・トリスターノ/鬼才トリスターノ

JAZZ Piano 4

2012年01月15日

lennie_tristano Lennie Tristano / Tristano

 クール・ジャズで有名なレニー・トリスターノの代表作と知られる名作。地味ながらその調和のとれた端正な風情が確かにいいんですね。淡白であっさりとしたいわゆる飽きの来ない魅力があります。粋なジャズBGMとしては最高の1枚かもしれません。パーソネルは、レニー・トリスターノ (p)、リー・コニッツ (as)、ジーン・ラメイ、ピーター・インド (b)、アート・テイラー、ジェフ・モートン (ds)。1955年録音。Atlantic。

 レニー・トリスターノ(1919-78)は盲目の白人ピアニスト。クール・ジャズというムーブメントがバップからハード・バップに移る時期の1940年代後半から50年代前半にありました。その代表選手がこのレニー・トリスターノとその一派ですね。

 ビル・エヴァンスやデイブ・ブルーベックはじめその後の白人著名ジャズマンが大勢いますが、黒人のジャズとは明らかに異なる雰囲気、その白人(正確にはユダヤ人と言い切った方がより正しいのかもしれません)のイカしたジャズの原点を形作ったのがレニー・トリスターノであったと言えるのでしょう。あのマイルス・デイヴィスもまさにその影響下に独自のジャズ・スタイルを築き上げたと言って過言ではありません。

 しかしながら、クールと一括りにした場合はそうであっても、個別的に見ればトリスターノ派のジャズは孤高のそれであり、クールの先鞭をつけたという意味では先駆者なのでしょうが、その個性を受け継いだのは、L.コニッツ、W.マーシュ、P.インド、B.バウアー、J.モートンら直系のジャズマンのみでした。適切な例ではないですが、ネアンデルタール人が現代人の祖先でなく、現代人とは支流の関係にある別の種ということに今の学説は落ち着いていますが、混血があったりということでは少なからず影響を与えているようです。トリスターノ一派は、そういう意味では、モダン・ジャズのクールという分野の先駆者には違いないのですが、その先は別れて細い支流になってしまったということだと思われます。

 ところで、cool っていう英語は、格好いいとかイカしたという意味で使われますが、ここで使われているクール・ジャズという表現も、ソウルとかセンチメントとかの情念世界とは対極にある、さらりと凛とした涼やかな雰囲気を示す、やはり粋で格好いいということに繋がっているのだと思います。

 トリスターノ派のクール・ジャズの中で最もポピュラリティの高い作品を残してきたのはアルト・サックス奏者のリー・コニッツです。トリスターノが残した作品が決して多くないので仕方ないのでしょうが、やはりトリスターノのピアノ演奏は独特の雰囲気があります。コニッツ名義の名作「サブコンシャス・リー」では当然ながらトリスターノがリーダーのような感じですね。

 全9曲。前半4曲がピアノ・トリオ、後半5曲がライブでコニッツを含むカルテット演奏です。前半のトリオ演奏はトリスターノの典型的個性的な演奏が聞かれます。その中低音域を中心とした明晰で冷徹な音の連なりが新鮮です。このアドリブ・ラインはまさにコニッツのそれであることが思い起こされます。1、3、4曲目はまさにそういうトリスターノですね。

 2曲目はブルース曲。トリスターノのブルース演奏というとこんな風になるのですね。やはり感情を極力排したものですが、それでもメロディ・ラインから感じられるフィーリングはブルースのそれであり、これも十分ありだと思われます。

 コニッツが加わった後半の5曲は、コニッツが他の作品で表現してきたものの上質なものが示されていると言えるでしょう。私はこれらの演奏が好きです。ジャズ史的には前半の演奏が価値あるのでしょうが、後半5曲はそういう意味では、トリスターノ御大が自ら参加したにもかかわらず、ライブ聴衆を意識した寛いだセッションという印象です。

 コニッツの加わった演奏は、前半の求道的な要素が無く、エンターテイメントとして十分に楽しめるものになっています。55年の録音ですので、ハード・バップが全盛になりつつある時期だけに、コニッツのアルト吹奏には、クール一辺倒ではない明らかに温かい情が音楽の中に宿っています。トリスターノのピアノにもずっと小さいながら同様なものが感じられます。
 
 やはりコニッツのくすんだアルトの音色と独特ながら愛らしいメロディ構築が魅力です。トリスターノのピアノは明らかに通常の冷厳な演奏とは異なるエンターテイメントを前面に押し出した分かり易い演奏になっています。それがなかなかよい感じなのですね。クール的な中に適度な温もりがあって聞き易いジャズなのですね。BGMに流しておくのに丁度よい具合なのではと思います。


1. Line Up
2. Requiem
3. Turkish Mambo
4. East Thirty-Second
5. These Foolish Things
6. You Go To My Head
7. If I Had You
8. Ghost of a Chance
9. All The Things You Are


YouTubeから1965年当時のソロ演奏をピック・アップしてみました。

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Lennie Tristano / Tristano

関連エントリはこちらから。
 →リー・コニッツ/サブコンシャス・リー
 →リー・コニッツ/モーション
 →リー・コニッツ/ヴェリー・クール

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