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エンリコ・ピエラヌンツィ/バラード

JAZZ Piano 3

2011年08月28日

Enrico_Pieranunzi_Ballads Enrico Pieranunzi / Ballads

 久しぶりの更新です。エンリコ・ピエラヌンツィのピアノ・トリオ作品。静かなバラードが心に沁み入ります。上品で洗練された音楽。やはりこういうジャズがいいですね。耳を澄ましてじっくり聴くと疲れた精神が浄化されてゆくようです。パーソネルは、エンリコ・ピエラヌンツィ(p)、マーク・ジョンソン(b)、ジョーイ・バイロン(ds)。2006年録音。Camjazz。

 このところ、私の音楽の探求というか探検の方は加速度を急激に増しています。このブログでも今後それら多くの成果がエントリという形で示されてゆくことでしょう。東京方面に住み着いて早5年目ですが、最近図書館で大量に音楽CDを借りるという習慣が日常化しています。実はその主な対象というのはクラシック音楽なのですね。このブログでもハイドンはじめすでにいろいろ書いてきてはいますが、モーツアルト、ベートーベン、バッハらの巨匠の音楽、特にピアノ音楽に夢中になっているのです。

 クラシック音楽はジャズと違って楽譜があるため、演奏家の違いがよく分からない、いい曲があれば著名な演奏家のものを1枚持って繰り返し聴けばいいと思っていたのですが、それが、ジャズと同様に演奏家によって曲の解釈や表現が大きく異なっていることに興味を持っています。このことは以前からよく分かっていたことではあるのですが、今回、好みの曲をいろいろな複数の演奏家CDを図書館で借りてダウンロードして聞くという作業を繰り返す中で、そうしたことを鮮明に理解することができました。そしてそれは音楽の魅力の奥行きというか幅広さが知る良い機会になっています。

 ジャズのインプロビゼーションは演奏家の個性そのものです。クラシックの独奏演奏にもカデンツァと呼ばれて演奏家の自由演奏というものがあるにはありますが、その範囲は非常に狭く限られています。むしろ同じ楽譜に書かれた音符の連なりを演奏家がどう表現したいか、微妙な差のように思えますが、日頃聞き慣れた演奏と別の演奏を聴いた時に感じる差異は存外に大きいものです。すぐにそれと分かるだけでなく、自分がどちらが好みかということまで瞬間的に判断しているように思えます。ジャズ演奏家の個性は比較的分かり易いのと同じように、クラシックの演奏家の個性も自分の好きな曲で日頃繰り返し聴いていれば割とよく分かるものなのです。

 次いでにもう一つ感じることを書いておきましょう。ピエラヌンツィさんのピアノのことを他所に置いて申し訳ないですが。それは、ジャズという音楽形態のことですね。クラシック音楽をよく聴いていますと、主題のメロディがあって、副主題や変奏とか何やらいろいろ広がったり盛り上がっていくわけですが、ジャズ演奏を聴いて感じる快適はまさに主題メロディとその発展というか周辺の即興的な音の連なりとハーモニーなわけで、結局のところ一方は即興、一方は楽譜があるというだけで、音がもたらすであろう快楽の根元のところは結果的には同じであると思われます。

 音の自由で心地よい連なり、音の重なりであるハーモニーこそが大切な要素であって、あともちろんリズムがあるのだけれど、その本質はジャズだろうがボサノヴァだろうが演歌だろうが同じなのだいうのが私の推論・仮説になるわけです。音楽にも進化という概念があるとすれば、ジャズやボサノヴァ音楽の魅力はその点で恐らくは究極的なものなのではないかと私は密かに思っています。クラシック音楽、特に西洋の調和音階に基づくバロック以降18世紀の音楽がベースになり、20世紀以降、大衆的なポピュラー音楽が生まれ発展してゆく、その到達点にジャズ音楽が位置していると。

 長くなりましたのでまた続きはいずれ書くということにしまして、エンリコ・ピエラヌンツィのジャズについても何かしら記しておきましょう。バド・パウエル、ビル・エヴァンスらがモダンジャズピアノの基礎を作った1950年〜60年以降、その流れを汲んだ著名なピニアストはたくさんいますが、このピエラヌンツィは80年代に登場してヨーロピアンピアノジャズの典型的な魅力を伝え今現在も現役で活躍するやはり今を代表する正統的エヴァンス派ジャズピアニストになるわけです。その音楽の魅力は美しく流麗に流れるメロディックセンスがまず挙げられましょう。決して俗に流れない高貴な雰囲気と深い感情表現がいいですね。

 ビル・エヴァンスの内省的なセンスを少し明るくして開放的にしたような、尽きること無く紡がれる美的な旋律ライン、それも長く続くラインが素晴らしいと思うのですね。さらにタッチセンスやハーモニー感覚も素敵だと思います。聞き流しても心地よいですし、じっくり聞き込んでも魅力的です。全体的に引き込まれてゆく類の音楽ですね。このバラード、バラッドという発音の方が自分的にはしっくりくるのですが、というアルバムは2006年録音ですから1949年生まれのピエラヌンツィ57歳ということになります。円熟というか、悟りのような境地を感じさせてくれます。落ち着きと郷愁、憧憬といった感情に溢れた音楽です。

 全11曲。スローバラッド集です。でも甘ったるい音楽ではありません。風のように爽やかで押し付けるところのないサラリとした音楽。これぞ典型的なヨーロッパのジャズです。そこはかとなく厳かな雰囲気が漂うのはエンリコ・ピエラヌンツィというピアニストの個性なのでしょう。

1. Mi Sono Innamorato Di Te
2. These Foolish Things
3. When I Think Of You
4. A Flower Is A Lovesome Thing
5. The Heart Of A Child
6. Sundays
7. Thought
8. Night After Night
9. When All Was Chet
10. Miradas
11. Cabiria's Dream

Enrico Pieranunzi(p), Marc Johnson(b), Joey Baron(ds).

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Enrico Pieranunzi / Ballads

関連エントリはこちらから。
 →エンリコ・ピエラヌンティ/ナイト・ゴーン・バイ
 →エンリコ・ピエラヌンティ/プレイ・モリコーネ
 →エンリコ・ピエラヌンティ/New Lands

投稿者 Jazz Blogger T : 21:08 | トラックバック

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