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アントニオ・ファラオ/ソーン

JAZZ Piano 4

2011年12月11日

Antonio_Farao_Thorn Antonio Farao / Thorn

 最近はじめて聴いたイタリア人ピアニスト、アントニオ・ファラオの作品を紹介しましょう。現ジャズ界において、中堅どころでは最も注目されている実力派ピアニストの一人、アントニオ・ファラオの2000年の録音。テクニックに裏打ちされた感性と音楽性が高いレベルで表出された上質で豊かなジャズ音楽です。パーソネルは、アントニオ・ファラオ(p)、クリス・ポッター(sax)、ドリュー・グレス(b)、ジャック・デジョネット(ds)。2000年NY録音。Enja。

 アントニオ・ファラオ(1965〜)は、98年に初リーダー作「Black Inside」以降、次々とリリースされる作品を通じて、今最も旬のジャズ・ピアニストの一人と目されているようですね。私にとっては本日エントリの「ソーン」がファラオ初体験になるのですが、何度も聞き返してはその評判に違わぬ優れたピアニストという認識を持ちつつあります。

 このところ、イタリア・ジャズを集中的に聴く毎日を過ごしています。2000年以降のイタリア・ジャズ界はその才能あるタレント達の活躍と彼らが創り出す高品質のアルバム群によって、それはまさに世界の中心的な発信地になっているようですね。

 ピアニストでは、アントニオ・ファラオ(1965〜)、ルカ・マンヌッツァ(1968〜)、ステファーノ・ボラーニ(1972〜)らがこの世代に当り、その前の世代には、著名なエンリコ・ピエラヌンツィ(1949〜)やレナート・セラーニ(1958〜)がいますね。

 私の最近の興味は、特にルカ・マンヌッツァとアントニオ・ファラオの2人にあり、彼らがどんなピアニストであり、どんな音楽を作り出そうとしているのか、その辺りのことを明らかにしたいと思っていまして、その探索は始まったばかりです。

 マンヌッツァは、ファブリツィオ・ボッソやマックス・イオナータらと共に50年代60年代のハード・バップや新主流派の典型的な王道モダン・ジャズ路線を、自分達の理想とする現在最高の洗練さて持って再構築しているように見えます。

 アントニオ・ファラオについては、本日現在、私はまだ本作しか聴いていない状況ですので何も言えないと思いますが、やはり何と言うか、その磨き抜かれた技量と音楽性に立脚して、モダン・ジャズの持つ普遍的な魅力を極めたい、あるいは、その高みに達したいという、強靭な魂や意志を感じますね。

 ファラオのピアノは時に激しくパワーとテクニックで聴く者を圧倒するような力があります。本作ではジャック・デジョネットが加わることでそれを後押ししていますね。それとは対照的に、数曲の学曲においては、鎮静した美しく粘っこい演奏が繰り広げられています。この深い思索的なピアニズムが私的には非常に魅力的です。

 全9曲。トリオ演奏とマルチ・サックス奏者のクリス・ポッターが加わったカルテット演奏があります。一番印象に残った演奏は4曲目 Epoche です。ポッターのソプラノ・サックスとファラオのピアノが織りなす退廃的なムードが素敵です。神秘的というか悪魔的というか、音楽には何らかの隠された暗部のようなものがあると一層魅力的になるものなのです。クラシックでは作曲家のスクリャービンが、また、ジャズ界でもウェイン・ショーターがそれを的確に示しています。

 女性のイニシャルと思われる曲名の7曲目 B.E. が次に好きです。エヴァンス・ライクな内省的な美しいバラッド演奏です。ファラオのピアノには、ジャズ・ピアノが持つべき香(かぐわ)しい芳香がありますね。少し強めの体臭の方がクセになるというか、引きつけて止まないものがありますが、それほどでもなく中庸で適度な感性を感じます。
 
 9曲目も同様な路線で、ファラオがヨーロッパのピアニストであることを思い起こさせる内容です。短調のメロディが品よく流麗に紡がれてゆくエレガントなピアノです。2曲目 Time Back もやはりトリオ演奏ですが、デジョネットのエンカレッジングなバッキングを伴って、ファラオのピアノが縦横無尽にジャズ的奔放さとしなやかな音楽性を披露してみせます。これぞジャズという素敵なジャズ・ピアノです。

1. Thorn
2. Time Back
3. Preludio
4. Epoche
5. Caravan
6. Arabesco
7. B.E.
8. Tandem
9. Malinconie

Antonio Farao (p), Chris Potter (sax), Drew Gress (b), Jack DeJonnette (ds).

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Antonio Farao / Thorn

投稿者 Jazz Blogger T : 11:55 | トラックバック

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