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バド・パウエル/バドイズム

JAZZ Piano 3

2011年02月06日

karin _krog_jazz_moments Bud Powell / Budism

 今日はバド・パウエルの晩年の作品です。最近iPodに入れてよく聴いているアルバム Budism。ストックホルムのゴールデン・サークルというジャズ・スポットでのライブ盤。3枚組。パーソネルは、バド・パウエル (p)、 トルビョン・フルトクランツ (b),スーネ・スポングベリィ (ds)。1962年ストックホルム録音。Steeplechase。

 バド・パウエルの晩年の作品の中で、いや全作品の中でと言った方がよいでしょう、私的には最も心に響くものがあるのが本作です。1960年代ヨーロッパに移り住んだパウエル晩年の作品の中ではマイナーなものです。例えば、本ブログでも取り上げた、Portrait of Thelonious(1961) や In Paris (1964)、それに本作の表版とも言うべき At the Golden Circle などが著名ですね。

 Budism ってタイトルが重厚です。バド主義とかバド流儀という意味合いになるのでしょう。ism は固有名詞の下に置いて主義とか流儀をあらわす接尾辞。バド・パウエルの演奏スタイルにそうした表現を当てはめるのは的を得ていると思います。独特のジャズ、音世界ですからね。

 1950年前後の天才とか神がかりとか言われる演奏に比して、切れ味なく、ミスタッチ多く、まるで凡人に成り果てたようなのだけれど、それでいて、身近で分かり易い、手の届くパウエルがそこにいるわけです。特にスローテンポのバラッド演奏がこの上なく好ましく、何度も繰り返して聴きたくなる音楽なのです。何とも言えぬ枯れた味わいがありますね。ミディアム・テンポの曲も心地よいもので、いずれにしましても、身近に置いて寝転びながらBGM的に鳴らしておきたい類の音楽なのです。

 At the Golden Circleという5枚組アルバムがあり、本作はそこに取り上げられなかった音源から成り立っています。当然、本家本元にはより優れた演奏が並べられ、こちらには残りものの少し問題のあるものが並んでいるというわけです。しかしながら、確かにミスタッチが目立ち生気ない演奏の連続ではあるものの、それを枝葉末節と言うかどうかは別にして、その中にも音楽的に感動を呼び起こす優れたものがあるのだということです。

 さらに極論を言えば、むしろ、そうした少し問題のある演奏の中にこそ、味わい深い何かがあるのかもしれないと。これは、セロニアス・モンクの例を出すまでもなく、音楽には技巧や正確さよりももっと大切なものがあるということであり、少々のミスなどは大した問題にならないのだと思われます。また、少し話は異なりますが、もし、ドラッグによって蝕まれボロボロになったフィジカルな身体と、一方ドラッグによって一時的に研ぎ澄まされ高揚した神経とによって演じられる演奏であるとすれば、そうしたアンバランスなことも起こりえるのかもしれません。

 It Could Happened to You や I Should Care、Polka Dots and Moonbeams、 If You Were Here など、本家5枚組に入っていない演奏にこそ深く魅了されます。一部ミスの入る演奏ながらこれらはいずれも和音を多用する演奏スタイルのスローで静かな素敵なバラッド演奏です。50年前後でも 、例えばMy Devotion などにおいて片鱗が示された演奏スタイルではあるのですが、揺らぎのある音列によってよりいっそう身に染みわたるものがあります。

 もっともシングル・トーンでぐいぐいとドライブする演奏ではやはり往年の魅力、例えば、お好みのYou Go to My Head などの延々と続く魅惑的なアドリブ・ソロの魅力には及ばないかもしれません。とは言いましても、全体に好調が保たれていたことが明らかで、Blues In The Closet や Buttercup、Off Minor などバップ調の曲では溌剌としたピアノ演奏に十分なグルーヴ感があって魅了されます。最後のBlues In The Closet は素晴らしい出来だと思われます。

1. Hear Music
2. Relaxin' At Camarillo
3. It Could Happen To You
4. 52nd Street Theme
5. Blues In The Closet
6. The Best Thing For You
7. I Should Care
8. 52nd Street Theme
9. Off Minor
10. Polka Dots And Moonbeams
11. Buttercup
12. Epistrophy
13. Confirmation
14. Moose The Mooche
15. If You Were Here
16. I Here Music
17. The Best Thing For You Is Me
18. The Best Thing For You Is Me
19. Blues In The Closet
20. That Old Devil Moon
21. Straight No Chaser
22. Like Someone In Love
23. Confirmation
24. Relaxin' At Camarillo
25. Conception
26. I Should Care
27. I Hear Music
28. Dance Of The Infidels
29. Swedish Pastry
30. Reets And I
31. Buttercup
32. Groovin' High
33. 52nd Street Theme
34. Blues In The Closet

Bud Powell (p), Torbjorn Hultcrantz (b), Sune Spanaberg (ds).
Recorded At The Golden Circle,Stockholm,April or September 1962.

 YouTubeから、同時代のパウエルの演奏を見てみましょう。アップテンポの演奏しかなかったのは残念ですが鍵盤をほとんど見ずに演奏する雄姿が印象的で当時の好調ぶりが窺えます。シングル・トーンによる圧倒的なドライブ感あるアドリブ・ソロが奔流のように溢れ出ていますね。ちなみにベースは前回に引き続き若きニールス・ペデルセンです。

CDの詳しい情報はアマゾンでどうぞ。→ Bud Powell / Budism

関連エントリはこちら。→
ポートレイト・オブ・セロニアス
イン・パリ
バド・パウエルの芸術
ザ・シーン・チェンンジズ
アメイジング・バド・パウエル Vol2

投稿者 Jazz Blogger T : 12:22 | トラックバック

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