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エフゲニー・ザラフィアンツ・ピアノ・リサイタル

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2011年03月27日

Evgeny Zarafinants Piano Recital

 今日、仙川アヴェニュー・ホールで、ロシア出身クロアチア在住のピアニスト、エフゲニー・ザラフィアンツ氏のリサイタルと公開レッスンを聞いてきました。強靭なパワーとしなやかでソフトなタッチで曲想を自在に操る素敵な演奏と、それに造詣深く示唆に富んだレッスン指導に感激した6時間でした。上の動画はYouTubeから2010年のショパン・ノクターンの映像です。同曲は本日のリサイタルでもアンコールで演奏されていました。

 プログラムは、
① シューマン 「ユーモレスケ 変ロ長調Op20」
② 同 「蝶々 Op2」
③ ショパン ポロネーズ第2番Op26-2」
④ 同 「幻想曲 ヘ短調Op49」
⑤ 同 「幻想ポロネーズ 第7番変イ長調Op61」
の5曲でしたが、最初に被災者への追悼の意を込めて、
ショパン 「夜想曲 第20番嬰ハ短調遺作」
が演奏され、さらに、アンコールとして、以下2曲が演奏されました。
ショパン 「夜想曲 第11番ト短調Op37-1」
同 「夜想曲 第8番ニ長調Op27-2」

 公開レッスンの方は、3名の受講者で以下の内容でした。
受講者①杉井夕起さん バッハ 平均律第1巻よりNo.8 プレリュード・フーガ
           ベートーベン ピアノソナタ第18番第1,2楽章
受講者②安達朋博さん ショパン 舟歌 嬰ヘ長調Op60
受講者③中西明日香さん スクリャービン ピアノソナタ第4番 嬰ヘ長調Op30

 エフゲニー・ザラフィアンツ氏は、1959年ロシア・ノヴォルシビルスク生まれ。1993年ポゴレレリッチ国際コンクール2位入賞。2006年ザグレブ国立音楽院講師就任し、現在クロアチア在住でドイツや日本で活躍中。CDはすでに19枚リリースし、国内「レコード芸術」誌の特選盤や英「グラモフォン」誌の月間ベスト10に選ばれるなど高く評価されている。オフィシャル・サイト http://www.zarafiants.com/
 
 今回なぜリサイタルに参加したかと言いますと、実は最近ブラームスの間奏曲Op119-1がお気に入りでよく聴いているのですが、YouTubeでつい3日ほど前にザラフィアンツ氏の同曲の演奏を聞く機会があり、悪くないと感じると同時に週末に東京でリサイタルがあるという情報を得て、当日券でも参加できるとのことで行ってみたのでした。

 ザラフィアンツ氏を身近に見た印象は体格のよい手の大きな人。強靭な音響と繊細なタッチを併せ持つ、ロシア人らしい素晴らしいピアニストだと感じました。私はロシア人のピアニストには一目置いておりますが、ザラフィアンツ氏も期待に違わずしっかりした基礎技術の上に情感をしっとりと指先に伝え表現できる才能ある方と思われます。小ホールに響き渡る氏のピアノの大音響が今も印象深く耳奥に残っているようです。

 ピアノはFAZOLIという初めて聞くピアノでした。帰宅してからネットで調べて見ますと、イタリア人パオロ・ファツィオリ氏が1978年に工業製品と化した現代ピアノ製法の常識を覆すべく弦楽器の王「ストラディヴァリウス」と同じ木材を使うなど最高品質のピアノを製造しようと立ち上げたという、日本にまだ数台しかない優れものだったのでした。確かに高音域が艶というか独特の張りがあるのですね。ただ、コンクリート打ち放しの壁による音響のせいか、あるいはザラフィアンツ氏の打鍵が強すぎるのか、中音域が多少だぶつく感じがしたのは残念でした。このFAZOLIは、ショパン・コンクールの公式ピアノにも2010年に選定されたとのこと。また、ホール自体も音響学のノーベル賞と言われる「レイリー・メダル」(イギリス音響学会)を受賞された著名な建築家の橘秀樹氏の設計とのことでした。

 プログラムはあっという間に終わりましたが、個人的にはショパンの④幻想曲と⑤幻想ポロネーズが力強さの中に繊細な感覚があって大変感動しました。加えて、公開レッスンでの指導に興趣を感じました。通訳がロシア音楽学者である一柳富美子さんという方で、造詣のある言葉が分かり易く日本語として伝わってくる大変によい通訳であったことが大きかったのでしょう。

 公開レッスンの中にショパン舟歌とスクリャービンの第4番ソナタという、いずれも日常的に繰り返し聞いてきた大好きな曲があり、おかげでたっぷりと楽しむことができました。スクリャービンの音楽の持つ魅力、神秘性と恍惚感をいかに演奏でうまく引き出して表現するか、そのからくりがよく分かる内容になっていました。技術的なことだけでなく、作曲家の特徴や曲の持つ精神性とその解釈など、演奏の内面に深く掘り下げた洞察が感じられるものでした。ショパンやバッハ、ベートーベン、そしてスクリャービンのピアノ曲への理解が深まる良い機会にもなりました。

 


投稿者 Jazz Blogger T : 22:20 | トラックバック

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