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アート・ペッパー/ロンドン・ライブ1980
JAZZ Sax 3
2011年11月25日
アート・ペッパーの晩年の作品から最近気に入ってよく聴いているアルバムを紹介します。70年代以降の復帰後のペッパーは多くのアルバムを出していますが、このロンドン・ライブこそは最高の寛ぎパーフォーマンス。パーソネルは、アート・ペッパー(as)、ミルチョ・レビエフ(p), ボブ・マグヌソン(b), カール・バーネット(ds)。1980年ロンドン録音。
ジャズ・ファンにとってアート・ペッパー(1925-1982)は非常に大きな存在ですね。50年代の天才的なきらめきを印したアルバム群はサックス・ジャズの金字塔と言えましょう。70年代以降の復帰後も素晴らしい演奏を残していますが、復帰前があまりに神懸かり的であったばかりに、多少損をしていると思われます。
私は復帰後のペッパーは凡人らしくなって親近感があったり、ジャズを聴いて寛ぐという点においてはまったくもって復帰後の方がその目的に合うように思います。例えば、バド・パウエルに「バド・パウエルの芸術」という47年と53年の演奏を記録した名盤がありますが、特にA面の47年の方は芸術という表現も妥当かと思われるような格調高く品格ある天才そのものの演奏ですね。晩年のパウエルはそうした神懸かり的なものが希薄になった分だけ、楽しめるといいますか、気楽に寝転がって聞き流して適当に楽しめるわけです。
ペッパーの場合も似たようなところがあって、切れ味鋭い一本勝負とも言える隙のない完璧な演奏をしていた頃よりも、少し凡庸さや冗長さが加わることよって聞く側にも余裕というか遊びみたいなものが生じてくるのですね。芸術鑑賞ではなくて、エンターテイメントとして聞く状況が整っているわけなのです。録音時間が長くなっていたり、ライブ演奏が多くてより臨場感があったり、ジャズ本来の魅力を堪能できる環境下での演奏が多くなっているのです。
そうした意味で本作のロンドンでのライブ演奏は最高の一枚です。日常的に聴くジャズはやはりこういう寛ぎをもたらしてくれるお気楽で元気の元になるジャズがよいですね。特にライブ盤であることはジャズ特有の臨場感や即興性を楽しむ上で必須の要素です。ペッパーほどの実力者にとってはライブ演奏の方が上で主張してきた私好みの演奏を繰り広げることができ、結果的に寛ぎのあるエンターテイメントな作品となるのだと思います。
77年のヴィレッジ・ヴァンガードでのライブ盤がやはり復帰後の代表作なのでしょうが、発掘される形で後年になって日の目を見た本作の方に私は愛着があります。音質も悪くなく、バックのレギュラー・メンバーとの息もぴったりで、切れのよい元気溌剌なサックス・プレイは実に壮快です。同じ時期、同じメンバーでのパリ・ライブってのもありますが、残念ながら音質が劣るためにこちらロンドン・ライブが数段上でしょう。
このペッパーの快演を聴いていますと、やはり愛聴盤であるところのマイルス・デイヴィスのライブ盤「プラグド・ニッケル」を想起させられます。ともに過去を払拭、いや刷新するような高エネルギーに満ち溢れていて、その内面の充実や輝きがよく伝わってくるというか、心に深く分け入ってくる強烈な演奏なのです。こういうジャズこそ一番に愛すべきと私は思っています。
全5曲。2曲目ミシェル・ルグラン作「思い出の夏」の美しいメロディを料理するペッパー節がなかなか渋いですね。レビエフのピアノもいい感じです。3局目スタンダード Stella By Starlight も同様な路線で、渋柿のようにしわがれたバラッド演奏に凄みを感じさせられます。4曲目のジョビンの名曲「イパネマの娘」もメリハリの効いた鋭いアクセントの中にしなやかな黒豹のような品格と機敏さを漂わせています。このクセになる粘っこさは私が求めて止まない本流のジャズそのものなのですね。
1.Cherokee
2.The Summer Knows
3.Stella By Starlight
4.A Girl From Ipanema
5.This Blues of Mine(Blues In E-Flat)
Art Pepper (as), Milcho Leviev(p), Bob Magnuson(b), Carl Burnett(ds).
詳しくはアマゾンでどうぞ。
→ Art Pepper / London Live 1980
関連エントリはこちら。
→アート・ペッパー/モダン・アート
→アート・ペッパー/ザ・リターン・オブ・アート・ペッパー
→アート・ペッパー/ミーツ・ザ・リズム・セクション
→アート・ペッパー/ジ・アート・ペッパー・カルテット
→アート・ペッパー/ゲッティン・トゥゲザー
→アート・ペッパー/ジ・アート・オブ・ペッパー
投稿者 Jazz Blogger T : 22:54 | トラックバック
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