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デニー・ザイトリン/音楽がある限り

JAZZ Piano 3

2011年09月04日

Denny_Zeitlin_as_long_as_there's_music Denny Zeitlin/ As Long As There's Music

 デニー・ザイトリン(1938〜)はお気に入りのピアニスト。少ないアルバム数ながらその個性は深く印象的です。本作は97年と比較的新しいながら60年代往年の粘稠で耽美的なピアニズムが変わらず表現されています。パーソネルは、デニー・ザイトリン(p)、バスター・ウィリアムス(b)、アル・フォスター(ds)。1997年録音。Venus。

 私にとってデニー・ザイトリンは長年に渡って気になるピアニストの一人です。他に気になるのはアル・ヘイグ、E・ピエラヌンツィ、ロバート・ラカトッシュあたりです、現時点では。自分にとってまだ全貌が見えていない、個性が大変に好みに合う、今後の活躍や新譜を期待したい、といった類のものです。まあでも、アル・ヘイグはとっくに亡くなっており、ザイトリンさんも高齢ということで今後は明らかに期待できないのですが。

 私にとってのジャズ・ピアニストの分類というか色分けはオーソドックスなものだと思います。①バド・パウエル、セロニアス・モンク、ビル・エヴァンスが別格にあって、②バップ系パウエル派の多くの俊英達、例えば、ソニー・クラーク、レッド・ガーランド、ウィントン・ケリー、トミー・フラナガン、ハンプトン・ホーズらがいて、③エヴァンス派で60年代以降に登場の名ピアニスト達、例えば、キース・ジャレット、ミッシェル・ペトルチアーニ、エンリコ・ピエラヌンツィら、④それに現代21世紀の、ビル・チャーラップ、ブラッド・メルドー、ロバート・ラカトッシュら。その他を入れても4種かそこらの分類です。その他としては、例えば、オスカー・ピーターソン、レイ・ブライアント、アーマッド・ジャマル、テテ・モントリューら。

 その中で、特に、アル・ヘイグ、スティーブ・キューン、デニー・ザイトリン、エンリコ・ピエラヌンツィ、ロバート・ラカトッシュら耽美的で個性的なピアニストが個人的な好みになります。ヘイグのみバップ系パウエル派、その他はエヴァンス派と思われます。いずれも個性はあるものの特有の美しいジャズ・ピアニズムの表現には共通の美学というかセンスを感じます。

 デニー・ザイトリンのピアノはすぐに彼の演奏だと数小節を聴けば分かる類の個性的な演奏スタイルであり、その特徴は粘っこい音と音との繫がりがもたらす深く濃厚で魅惑的な退廃的リリシズム。特にスローバラッドでの情緒的なインプロヴィゼーションにはそういった深海のような深い味わいがあって、好きな人にはたまらないのではないでしょうか。音の選び方も曖昧模糊とした雰囲気を恐れずというか敢えてそうした不完全感を醸すことで麻薬的に魅了するようなところがあります。

 ビル・エヴァンスも同類の演奏と印象を与えてくるのですが、ザイトリンにはザイトリン独特の美学があって、ため息の出るようなより深い一種病的な音世界を形作るようなのですね。糸を引くようなネバネバした余韻を持った夜の音楽。そんなザイトリンのバラッド演奏を私は愛して止まないのです。本アルバムでもそうした魅力ある演奏を聞くことができます。例えば、3曲目 For Heaven's Sakeや9曲目 I Fall In Love Too Easily。いずれもザイトリンを忘れさせないピアニストにするに足る素敵な演奏。

 また、ミディアム・テンポの曲調でもザイトリンの好ましい特徴があります。例えば、7曲目 Triste では、ボサノヴァ風のアレンジで快適な演奏の中に、独特の音運びとタッチ、それにハーモニーセンスによって、浮遊感というか至福感を与えてくれます。サラリとしているけれど、手の込んだザイトリン流の仕掛けがたくさん埋め込まれている、そんな印象です。表題曲1曲目の As Long As There's Music や5曲目 I'm All Smiles でもそんなデリケートなタッチが味わえます。

1. As Long As There's Music
2. They Can't Take That Away From Me
3. For Heaven's Sake
4. There And Back
5. I'm All Smiles
6. Cousin Mary
7. Triste
8. Canyon
9. I Fall In Love Too Easily
10. The Man I Love

Denny Zeitlin (p), Buster Williams (b), Al Foster (ds).

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Denny Zeitlin/ As Long As There's Music

関連エントリはこちらから。
 → デニー・ザイトリン/ザイトガイスト
 → ジェレミー・スタイグ/フルート・フィーバー

投稿者 Jazz Blogger T : 12:33 | トラックバック

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