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アル・ヘイグ/セレンディピティ

JAZZ Piano 3

2011年09月12日

Al_Haig_Serendipity Al Haig / Serendipity

 今日はお気に入りのピアニスト、アル・ヘイグです。繊細なピアノ・タッチから繰り出される優しく麗しい響きはクセになりますね。70年代後半晩年のヘイグは快調で安定していたことが伺われます。本作はその中の一枚。ミスタッチ目立たずマイ・ペースな好調ぶりが伺える素敵な演奏です。パーソネルは、アル・ヘイグ (p)、ジャミール・ナッサー (b)、ジミー・ウォームウォース (ds)。1977年録音。Interplay。

 ジャケットが印象的です。本作と全く同じ音源が「I Love You」というアルバム名でも出ていますがそちらのジャケットは地味です。なぜに「Serendipity」というアルバム名とこの美しい蝶のジャケットで売り出されることになったのでしょうか。

 サイエンスに携わる身としては、このセレディピティという言葉は非常に身近で日常的なキーワード。セレンディップ王子の逸話から取られた「偶然得られた掘り出し物」というような意味で、大発見や発明の際によく語られます。本作品にはそんなシチュエーションでもあったのかなと想像してしまいますが。

 アル・ヘイグ(1924〜82)の70年代以降のアルバムを最近好んでいろいろ聞いています。40年代後半から50年代前半にかけて、チャーリー・パーカーやスタン・ゲッツのバックで、あるいは数少ないリーダー作に聞かれるアル・ヘイグが元々大好きでした。野辺に咲く一輪のスミレとでも形容したくなるいぶし銀の渋い演奏に感激していましたが、70年代以降の趣味がよく音質もよいトリオ作品は典型的快適バピッシュなピアノ・ジャズとして何気に気楽に聞ける隣の小綺麗なお姉ちゃん的ジャズなんです。

 隣のお姉ちゃんなんですが、時々ちらりと見せるその凛とした佇まいのせいで実のところは憧れの存在であったりするのです。いつもは庶民的でおきゃんな可愛いタイプなのに、たまにメガネを外して遠くを見つめるような一瞬の眼差しや姿形がひときわ麗しく品がよくて思わずキュンとなってしまうのですよね。ヘイグの熟練の手管と歳を感じさせない過敏な神経が不思議に同居する音楽は、私にとってそんな身近でありながら永遠に届かぬ憧れなのです。

 デリカシーとでもいうのでしょうかね。絶妙にいい具合なセンスを感じるのですね。ビル・エヴァンスもそうですが、左手の和音がいいんですね。微妙に色合いが付けられて、そこそこと思わず唸りたくなるような、痒いところに手が届くというか、きっと美的センスに優れていらっしゃるのでしょう。典雅な音楽なんです。モーツアルトやハイドンの音楽で味わう脳によい音楽。α波が出る音楽なんです。

 職人的な気質。美の追求に一生懸命だったと思われます。さらりと流れるフレーズやハーモニーに才能ある職人気質(かたぎ)の技が隠されているのです。ちょっと聞くだけでは平凡な感じがするのですが、耳を澄まして繰り返し聴いているとその薄味ながら絶品と言いたくなるような忘れがたい味とバランスがあるのです。これは、日本料理やアルコールの良し悪しに似ています。旬の素材のいい味を引き出すためには化粧の濃いこってりしたものより非常な薄味であったり、アルコールは甘口でなくあっさり目の辛口であったりするのです。

 70年代のアルバムをここに整理しておきましょう。まだ聞いていないものがたくさんあります。 
「インヴィテーション」(1974)
「チェルシー・ブリッジ」(1975)
「マイルストーンズ」(1976)
「デューク&バード」(1976)
「バド・パウエルの肖像」(1977)
「セレンディピティ」(1977)
「オルニソロジー」(1977)
「ブルー・マンハッタン」(1980)

 全9曲。どれも分かり易く耳障りのよいジャズです。スローなバラッドもよいですが、ミディアム調の曲に旨味というかコクがあるように思います。ラヴェルのピアノ音楽が繊細なガラス細工のような美しい印象を与えることがありますが、アル・ヘイグのジャズもまさに同様な印象があり、さらに新鮮な生ものという、違った意味の壊れ易さ、儚さを感じます。9曲目エリントンとストレイホーンのCome Sundayが一番好きかな。マヘリア・ジャクソンの歌声とはまた違った上品な哀愁が漂っています。

1. I Love You
2. In A Sentimental Mood
3. I've Got Something For You
4. Tea Dreams
5. I'll Keep Loving You
6. All Blues
7. Along Came Betty
8. A Night In Tunisia
9. Come Sunday

Al Haig (p), Jamil Nasser (b), Jimmy Wormworth (ds)


詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Al Haig / Serendipity

関連エントリはこちらから。
 → アル・ヘイグ/ジャズ・ウィル・オー・ザ・ウィスプ
 → アル・ヘイグ/オルニソロジー
 → アル・ヘイグ/インヴィテイション

投稿者 Jazz Blogger T : 22:38 | トラックバック

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