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サージ・チャロフ/ブルー・サージ

JAZZ Sax 3

2009年03月20日

アル・ヘイグ/インヴィテイション Serge Charoff/Blue Serge

 今日はサージ・チャロフというバリトン・サックス奏者のワン・ホーンの名作を紹介します。バリバリ吹きまくる豪快というよりもソフトでメロディアスな流麗かつ渋い演奏。パーソネルは、サージ・チャロフ(bs)、ソニー・クラーク(p)、ルロイ・ヴィネガー(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)。1956年3月4日ロサンジェルス録音。Capitol。

 ジャズのバリトン・サックスといえば、私の中では、ジェリー・マリガンがダントツで、次にデューク・エリントン楽団のハリー・カーネイとこのサージ・チャロフ、あとペッパー・アダムスやセシル・ペインというところでしょうか。でも本作を聞いていますと、実力的にはこのサージ・チャロフの方がマリガンよりも上じゃないかとも思われます。34才という若さで脊椎ガンのために亡くなったために残された録音数はごく限られており、夭逝が本当に惜しまれる才能あるジャズマンの一人です。

 サージ・チャロフ(1923-1957)は、47年から49年までウッディ・ハーマン楽団にて活躍し、50年代に入って病気のために第一線を引いていましたが、晩年の54年に再起、そして、55年56年にキャピトルに2枚のリーダー作を残すことによってチャロフの名はジャズ史に永遠に刻まれることになりました。本作は56年の録音で、サージ・チャロフというジャズマンの貴重な卓越した演奏が記録されています。

 昔の名のあるジャズマンの多くが若死にしていますが、繊細な芸術家が過酷な現実に対峙しつつ少しでも優れた芸を残すためについつい手を染めがちな麻薬やアルコールへの耽溺というものがその遠因であった場合が多いようです。でもこのサージ・チャロフの場合はガンという病気で状況はかなり異なっています。不可抗力というか運命のようなものですから。でも表現者として後世の人に感銘を与えることができる芸術エンターテイメントを残せたこと、それは素敵なことだと思うのですね。自身の運命を悟った芸術家の渾身の演奏だったのかもしれません。白血病で逝ったリパッティのピアノ演奏のように。

 醜くくてどうしようもないと思えるブルドックを喜んで飼っている人の気持ちを私は全く想像さえできないけれど、何とかしてあげたいという母性をくすぐるものがあると昔付き合っていた女性から聞いたとき妙に納得した覚えがありますが、バリトン・サックスって楽器をジャズで聞くとき私は同種の感覚を感じることがあります。ただチャロフの場合にはそれが例外的に当てはまらないかもしれません。あまりに流調にこの困難な楽器を吹きこなしているからです。

 お気に入りのエリック・ドルフィーが吹くバス・クラリネットの吹っ切れそうで吹っ切れないけれどたまにものすごくぶち切れる瞬間があって、その際に強いエクスタシーを感じたりする、そんな印象に近いですね。バリトン・サックスも労多くじっくりと紡いできたソフトなメロディラインをたまに巨象が咆えるように裏返った音色でエネルギッシュにぶち切ることがあるのですね。その刹那がとっても気持ちいいと感じるんです。それも、チャロフの場合にはごくたまにしか起こらないのです。テナーサックスのように流麗なんですね。でもバリトン独特の中高音を強く吹いたときの音色の興趣は同じく魅力的ではあります。

 共演者のソニー・クラークはまだ西海岸にいる頃の参加て、東に出てアルフレッド・ライオンに気に入られてブルーノートで活躍するのはこの後のことです。本作でクラークの奏でるブルースにはやはり臭みがあまり無くて気品といえるような品があるのですね。それにカウンターを的確にとらえるかのような生来の一音一音の重いタッチはすでに顕在化しています。まあでも幾分まだ西海岸ジャズ独特の軽さというか明るさが漂っていることは確かで、アート・ペッパーと共演したラス・フリーマンの繊細なセンスを思い起こさせます。

 全7曲。いずれも質の高い快適なジャズです。何気なく聞くには最高のジャズ。疲れた夜に恋人と聞く大人のジャズ。癒しのジャズですね。特にバラッド演奏が素敵で、3曲目Thanks for the Memory と7曲目 Stairway to the Stars が個人的にお好み。ビブラートが効いた余韻のあるバリトンが実に渋いのです。繊細な歌い回しが味わい深く、それに一瞬だけ感極まって豪放にうねりますがそれがまたいい表情を見せてくれます。4曲目 All the Things You Are や5曲目 I've Got the World on a String も曲本来の持つ快調具合がうまく表現されていてとてもいい塩梅。また、全体に、ソニー・クラークのピアノがつぼを押さえた憎いやつそのものであり、ルロイ・ヴィネガーのベース、これがまた腰の重い重量級で実に心地よいです。

1. Handful of Stars
2. Goof and I
3. Thanks for the Memory
4. All the Things You Are
5. I've Got the World on a String
6. Susie's Blues
7. Stairway to the Stars

詳しくはアマゾンでどうぞ。試聴可。→ Serge Charoff/Blue Serge

iTunes Storeでも試聴可。→Serge Chaloff - Blue Serge

投稿者 Jazz Blogger T : 20:47 | トラックバック

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