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ウラジミール・シャフラノフ/WHITE NIGHTS

JAZZ Piano 3

2008年09月28日

Vladimir Shafranov/White Nights

 今日は今や真摯なジャズファンにとって愛すべき貴重なレーベルになりつつある澤野工房の看板ピアニスト、ウラジミール・シャフラノフの著名な作品を紹介します。幻の名盤と言われたホワイト・ナイツ。澤野工房が1999年に復刻してCDリリースしたもの。パーソネルは、ウラジミール・シャフラノフ (p)、ジョージ・ムラーツ (b)、アル・フォスター (ds)。1990年NYC録音。澤野工房AS001。

 澤野工房というレーベルは1998年からCDの製作販売を開始しているようですので、もう丁度10年になるのですね。ヨーロッパのジャズ・ピアノを中心にローカルだけど個性的で素晴らしいジャズマンの作品を製作紹介してくれる貴重なレーベルです。すでに全タイトル100以上になり、最近では毎年10~20枚くらいのCDやDVDを発売すると同時に毎年コンサート・ライブも主催しています。音質がよいというのもこだわりがあって共感できますね。
 ホームページはこちら→ 澤野工房

 ウラジミール・シャフラノフは、1948年ロシア生まれで1983年にニューヨークに渡り米で活躍後、現在フィンランドに居住するジャズ・ピアニスト。1990年録音の本作はシャフラノフの名を一躍著名にした代表作。澤野工房の紹介によると、『評論家・寺島氏が90年代名盤の1枚として大きく取り上げられた、まさにピアノファン必聴のアルバム。入荷即完売の伝説もあるシャフラノフの代表作。澤野工房より待望の復刻。「ライブ アット グルーヴィー」(コンパス原盤)とともにジャズファンに絶対に受け入れられる作品です。』とのこと。

 シャフラノフの魅力は、尽きることのないアドリブセンスとドライブ感、粘着質なリリカルなタッチ、よく転がる右手。本作では全14曲が各3~5分くらいの短めの長さで収められており、後年のアルバムに聞かれる演奏に比べて割とあっさりした印象を受けます。まだ開花前の個性が一部しか発揮されていない中庸な感じとも言えるでしょうか。

 最近は特に人気の北欧のジャズとはシャフラノフはまた違った感覚です。私にはボボ・ステンソンやステファン・カールソンらのお気に入りがいますけれど、そこはかと流れる清澄感・透明感に少し共通のものを感じるものの、シャフラノフはもっと本場のアメリカン・ミュージシャンっぽくて、あまり黒くないのだけれどグルーヴィー感がしっかりとあるんですね。分りやすくてノリのよいスインギーなピアノ。
 
 1曲目のLove Walked In でいきなりそうしたシャフラノフのリラックスした極上のジャズ・フィーリングを感じ取れる素敵な演奏が始まります。2曲目 I Remenber Clifford はベニー・ゴルソン作の美しいスタンダード、シャフラノフは独特のリズム感のある粘っこいセンスの一端を垣間見せてくれます。もう1コーラス、もっと深いやつをと期待したくなるところで終わってしまうのがちょっと残念ですね。 3曲目 Giant Steps はコルトレーンのスピード感ある有名曲ですが、やはりドライブ感を伴ってリリカルに料理しています。

 アルバムタイトルになる4曲目のWhite Nightsはどこかで聞いたことがあると思えば、ロシア人作曲家スクリャービンの初期のピアノ曲、3つの小品 作品2-1の主題を借用したものですね。スクリャービンは私の大好きなクラシックの作曲家ですが、この曲は日頃ホロヴィッツや小山実稚恵さんの演奏で親しんでいます。ロシア的濃厚ロマンティシズムが宿る物悲しげなメロディをシャフラノフは郷愁を込めてブルース調に展開してゆきます。生れ故郷のサンクトペテルブルグの白夜のイメージを祖国の体臭を感じさせる音楽で表現したかったのでしょうか。同じくロシア生れのソフィー・ミルマンが歌う悲しくも美しいロシア民謡「黒い瞳」を思い出します。

 6曲目 Tin-Tin-Dio はアート・ペッパーの演奏でお馴染みの私好みの曲ですが、シャフラノフはスピード感とアイデアに満ちた素敵なアドリブを繰り広げており、流石シャフラノフと、その面目を示す演奏になっていますね。9曲目 I've Never Been In Love Before は最長7分を超える演奏で、シャフラノフの長いソロが堪能できます。こうしたミディアム・テンポの愛らしい曲を心地よく快調かつリリカルに演奏したものが最もシャフラノフの優れた特徴を表現していると思われます。
 
 10曲目モンクのRound Midnigtはやはりリリカルな感覚でまとめられていて好印象です。13曲目 Vova-Nova はボサノバ調のアレンジで寛ぎの空間を演出しながら、なにげないタッチセンスにきらりと光る美意識が感じられます。毛色はかなり違うけれどアル・ヘイグのエレガンスな美的センスに共通のもの、潔い耽美的な匂いを感じます。

 余談ですが、シャフラノフの名前ウラジミールはロシア語圏では太郎とか一郎とかのポピュラーな名のようですね。Vladimirと書きますが、日本語的にはウラジミールまたはウラジーミルと記載され、クラシックのピアニストでは、ウラジミール・ホロヴィッツ、ウラジミール・ソフロニツキー、ウラジミール・アシュケナージらがすぐに思いつきますね。政治家のレーニンやプーチンもウラジミールという名だそうです。

 ついでにもう一つ余談。澤野工房は大阪のレーベルということで、3~4年くらい前に大阪の新世界にあるその工房に偶然立ち寄ったことがあります。自宅で使っているエプソンのプリンターが故障したので、大阪日本橋(正確には恵比寿町)の電気街にあるエプソンの修理センターに持込持参したのですが、修理に少し時間がかかるとのことで、近郊をぶらぶらしいるとたまたま澤野工房を見つけたのでした。通天閣のある新世界の商店街の入口近くに、靴屋さんの中の端っこにCDがたくさんある事務所のようなところが見え、看板には澤野工房と書かれていました。すぐに、ああ、これがあの澤野工房やんか、新世界にあると何かで見聞きしていましたのですぐに納得しましたとさ。

1. Love Walked In
2. I Remenber Clifford
3. Giant Steps
4. White Nights
5. Bluesnost
6. Tin-Tin-Dio
7. Sad To Say
8. Lester Left Town
9. I've Never Been In Love Before
10. 'Round Midnight
11. One By One
12. Django
13. Vova-Nova
14. I Mean You

Vladimir Shafranov (p), George Mraz (b), Al Foster (ds). Recorded at New York City, January 4&5, 1990.

詳しくは、澤野工房へどうぞ。→ 澤野工房、シャフラノフ/ホワイト・ナイツ
HMVでは購入可能(アマゾンでは販売されてません)です。→Vladimir Shafranov/White Nights

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