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アナトリー・ヴェデルニコフ/ロシア・ピアニズム名盤選10

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2008年09月29日

アナトリー・ヴェデルニコフ/ロシア・ピアニズム名盤選10 Anatoly Vedernikov / ロシア・ピアニズム名盤選10

 今日はスクリャ-ビンの「24の前奏曲」作品11なのですね。スクリャービンは私のお気に入りの作曲家。この「24の前奏曲」は派手な美しさはないもののいぶし銀のような透徹した美意識に貫かれた愛すべき味わい深いピアノ音楽。ヴェデルニコフはスクリャービンの清澄な音宇宙を淡白ながらピュアに理想的に奏でていると思います。

 ショパンの「24の前奏曲」(作品28、1838年)の方が大変に有名ですが、私はスクリャービンのこちら「24の前奏曲」(作品11、1897年)の方が圧倒的に好みです。若きスクリャービン(主に23~24歳時に作曲)のこの音楽には瑞々しい才能が光輝いています。耽美的な右手の魅惑の主題とともに、対比的に左手が別の音楽のように自由に動きながら音楽全体に深みと厚みを与えています。

 例えば、1曲目ハ長調の短いパッセージに耳を傾けると清らかな小川のせせらぎのような美しい響きにまず感激します。2曲目イ短調も憂いのある愛らしい小品。5曲目ニ長調も沈静したメロディを持つ魅力的な楽想。8曲目嬰へ短調はやはり奥行きのある劇的な楽想。9曲目ホ長調も静かな憂いを含む音楽。11曲目ロ短調の何とも甘美で美しい曲想。いずれも左手の生きいきした表情がピアノ曲とは思えない広がりある音楽に仕立てています。

 また、13曲目変ト長調ではロシア的なロマンチシズムが感じられる曲想が印象的です。後半は、名曲の練習曲8-12や練習曲42-5に聞かれる流麗なダイナミズムを持った曲が何曲かあります。14、18、19、20、24曲目らは、それぞれに個性的な楽想を示しています。21曲目変ロ長調も美しい音楽。

 スクリャービンのピアノ音楽には、それぞれに、ロシア的な憂いのある深い音楽、情念を感じさせるダイナミックな音楽、清らかな愛らしい音楽があり、それらは美しいメロディを基調としながら、自在な左手のサポートによりピアノ曲とは思えない重厚な世界を醸しています。

 演奏者のヴェデルニコフは完璧な指使いとペダルのテクニックでもってスクリャービンの透徹した美学を淡々と詩的に奏でています。録音状態が存外によいのも嬉しい限りです。スクリャービンのピアノ曲を十分に堪能するには、ピアノ音の低音から高音までその響きや共鳴が十分に伝えられる必要がありますが、本作品はそれを高いレベルで満たしていると思います。

 アナトリー・ヴェデルニコフ(1920-1993)はロシアを代表する名ピアニスト。ロシアが満州に建設した都市ハルビンで生まれ、10歳でデビューし、15歳の時に日本に1年ほど滞在して、翌年、両親と共にモスクワに帰国してモスクワ音楽院入学。直後に両親が静粛により逮捕され、父は処刑され母は強制収容所送りという悲劇を体験する。その後、ヴェデルニコフは才能を認められ、著名ピアニスト及び音楽大学の教授となるものの諸事情から60台になるまで外国公演を行なう事が許されず、ソ連崩壊後の1993年日本を訪れようとした矢先に急死することになります。

 ロシア・ピアニズム名盤選シリーズは圧倒的な力量を誇りながら西欧世界に知られなかったロシアの巨匠ピアニストたちの貴重な録音が記録されています。以前紹介したウラジミール・ソロニツキーの演奏も多数含まれています。尚、本CDには、紹介しませんでしたが、スクリャービン以外に2曲が含まれています。

1. 24の前奏曲op.11(スクリャービン)
2. ピアノ・ソナタ第5番ハ長調op.135(38)(プロコフィエフ)
3. ペトルーシュカ組曲(ストラヴィンスキー/ヴェデルニコフ編)

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ アナトリー・ヴェデルニコフ / ロシア・ピアニズム名盤選10

投稿者 Jazz Blogger T : 16:28 | トラックバック

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