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女と男のいる舗道/ジャン・リュック・ゴダール

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2005年03月26日

vivre_savie.jpeg女と男のいる舗道/ジャン・リュック・ゴダール

 こんにちは。今日はゴダール監督の映画『女と男のいる舗道』です。監督ジャン=リュック・ゴダール、音楽ミシェル・ルグラン、出演アンナ・カリーナ、サディ・レボ、ブリス・パラン、アンドレ・S・ラバルトほか、1962年仏作品、モノクロ、仏語。

 ビル・エヴァンス『ワルツ・フォー・デビー』のジャケットのような可憐で美しい横顔が冒頭の映画題名とキャストのテロップが出るしばらくの間映し出されます。主演のアンナ・カリーナです。この映画はゴダールのそれまでの『勝手にしやがれ』(59年)や『女は女である』(61年)などと同様に従来の劇場映画とは一線を画する独特の映像とストーリーから成り立っています。

 主人公のナナは若くして結婚して離婚をしたが女優を夢見ていた。しかし、安月給のレコード店では生活するのがやっと。たまたま街で男に誘われるままホテルに入り金を受け取る。そして、娼婦のヒモであるラウルと出会い彼に興味を持った彼女はその道に・・。ラストは身を売られる羽目になり結局死で終わるという哀しい話です。

anna_karina_1.jpeg 何気ないしぐさや言葉によって人間性を鋭く表現しようとする冷ややかな視線が印象的ですが、主人公演じるアンナ・カリーナのクローズ・アップが多用され、ゴダールのカリーナへの執着を感じるとともに、女性に対する何かしら吹っ切れない疑いの念といったものを感じさせる不思議な映像です。

 夫と子供に逃げられて身をもち崩した女友だちが、「でも私の責任じゃないの」ともらす言葉に対して、ナナは自分に言い含めるようにして言う言葉が印象的です。「私はすべてに責任があると思う。自由だから。手をあげるのも私の責任。右を向くのも私の責任。不幸になるのも私の責任。タバコを吸うのも私の責任。目をつぶるのも私の責任。責任を忘れるのも私の責任。逃げたいのもそうだと思う。すべてが素敵なのよ。素敵だと思えばいいのよ。あるがままに見ればいいのよ。顔は顔。お皿はお皿。人間は人間。人生は人生。」

 このシーンのあとにアンナ・カリーナはカメラを直視してこちらを向きますが、これは恐らくは今の演技どうだった?よかったかしらという演技後の魅力的な素のカリーナの表情のように見えます。実際、アンナ・カリーナが演技をする前の姿や演技を終えた後の動きがわざと入れられているとのことです。ありのままのカリーナの美しさを記録したとも言えますが、演技にこだわるカリーナは激怒。ゴダールと彼女の仲がうまく行かなくなるきっかけにもなったと言われています。

anna_karina_2.jpeg その他にも、主人公と初対面の初老の男性による哲学的な会話は、実際に哲学者であるプルス・パランとアンナ・カリーナによる即興的なものとのことで、可愛い女性カリーナの一面が見えたりしますね。また、エドガー・アラン・ポーの『楕円形の肖像』を朗読する若い男の声がゴダール自身の吹き替えであったり、映画館でナナが見ているのは、カール・テオドール・ドライエル監督の無声映画の名作『裁かれるジャンヌ』など。それに街の映画館の前を通ってトリフォーの『突然炎のごとく』が上映されているシーンなんかもありますね。

 主人公のナナという名は、エミール・ゾラの有名な小説で、ジャン・ルノワールによって映画化された『畳優ナナ』の主人公から取られたもの。ゴダールのナナとは対象的に、ゾラのナナは娼婦から大女優へと登りつめる成功する女性です。ゴダールは『女と男のいる舗道』で演劇的なものを目指したと語り、12の小景に分かれているのは、『三文オペラ』などの劇作家ベルトルト・ブレヒトにちなんでのこと。演劇のやり直しがきかないという特性を取り入れ、編集していない映像、ロケでの耳障りな雑音をそのまま使ったり、表情より言葉を強調するために俳優にはカメラに背を向けさせるということも行っています。

 少し、アンナ・カリーナのことをまとめておきます。

anna_karina_3.jpeg アンナ・カリーナ Anna Karina
 1940年9月22日デンマーク・コペンハーゲン生まれ。18才のとき短編映画に主演、カンヌ映画際で注目されるのをきっかけにパリに出る。ゴダールの目にとまり60年同監督の『小さな兵隊』に出演、61年ゴダールと結婚。ゴダール映画で、自由奔放で捕らえどころのない新しいタイプのヒロインを魅力的に演じた。61年の『女は女である』でベルリン映画祭女優賞を受賞。64年俳優ジャック・ペランと恋をしてゴダールと離婚。73年から監督業に進出し小説も書く。その他の出演作品、『5時から7時までのクレオ』(61年)、『気狂いピエロ』(65年)、『修道女』(66年)、『異邦人』(67年)、『シナのルーレット』(76年)、『黒の過程』(88年)など。

 ついでに音楽担当のミシェル・ルグランの映画音楽もまとめておきましょう。

ミシェル・ルグラン 映画音楽作品
54年 過去を持つ愛情
61年 女は女である、ローラ、5時から7時までのクレオ
63年 シェルブールの雨傘
66年 ロシュフォールの恋人
68年 華麗なる賭け(アカデミー主題歌賞)
71年 思い出の夏(アカデミー賞作曲賞)
81年 愛と哀しみのボレロ(セザール賞音楽賞)
83年 ネバーセイ・ネバーアゲイン
94年 プレタポルテ
95年 リミュエールの子供たち、レ・ミゼラブル

 本作品の詳細はアマゾンでどうぞ。→女と男のいる舗道/ジャン・リュック・ゴダール

投稿者 Jazz Blogger T : 10:46 | トラックバック

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