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伊丹敬之/イノベーションを興す

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2011年04月24日

pires_chopin_nocturnes イノベーションを興す / 伊丹敬之

 最近読んだイノベーション関連の本で感銘を受けた本第2弾です。伊丹敬之氏の講演を聞いたこともありますが率直でズバリと本質を射抜く眼は確かかと信頼しています。深い洞察にいつも脱帽していますが、本書は論理が明快で説得力があり、随所にその通りと納得させられる箇所が多かったです。備忘録としてここに記録しておきます。2009年。

筆者の技術の定義
「自然が内包しているきわめて豊かな論理の全体の中から人間の認識の中へ体系的に切り取られ、他者による再現や利用が可能なように体系化された論理的知識の総体」

偶然が必然を捕らえる。セレンディピティに対する筆者の説明。
「自然から見れば、自分のもっている必然の論理の中のごく一部を見せたに過ぎない。しかし、きわめて限られた事前知識と認識能力しかない人間には、それが偶然に見える。つまり、自然にとっては必然、人間にとては偶然、なのである。決して、自然そのものが偶然事象とでもいうべき不確実な変動をしているから、偶然に見えるのではない。しかし、そうした偶然のきっかけがあってはじめて、人間はそのきっかけが示す方向へ探索と認識の努力を始める。事前には思いもつかなかった方向へと導かれる。セレンディピティとよく言われる現象である。」
「もちろんそのきっかけは、正解の始まりでしかない。その偶然にめざとく注目し、その現象の背後の論理の解明をしなければ、技術開発には至らない。いわば、一回限りの偶然の現象を、固定化し永続化する作業が必要となる。それは、自然がもっている必然の論理をきちんと人間の認識の中に固定化する作業である。」
「偶然の必然化とは、自己矛盾のような言葉だが、そこに筋のいい技術が育ってくるプロセスの真実がある。バーディーンも「計画された偶然性が必要」と言っている。しかし、偶然の女神は誰にでも微笑むわけではない。偶然の必然化のプロセスには構造がある。有名な細菌学者パスツールに「偶然は準備のある心の持ち主に微笑む」。では、「準備のある心」とは何なのか。それは偶然の必然化につきものの、次の3つのステップへの努力と能力を備えた心、と言えるであろう。
1.偶然が生まれる→偶然の現象がおきる確率を高める努力
2.偶然に眼をつける→その現象を評価する能力
3.偶然を固定化する→その現象の論理を解明する能力」

生物の進化、技術の進化との対比。
「私は、偶然の必然化、あるいは偶然を必然が捕まえる、ということが技術が進化していくプロセスの本質の一つだと思うが、それは生物の進化のプロセスと似ている。すべての生命体の基礎となっているDNAが偶然のゆらぎで突然変異をすることは、広く知られている。その突然変異の累積とその後の淘汰が、実は生物の進化の歴史だそうである。生物は、偶然のゆらぎを自己のDNAの進化に取り込んで、気が遠くなるほどの時間をかけて実は多様な進化をしてきた存在なのである。」
「生物はゆらぎという偶然の中から、有位な情報を選び出す必然的なプロセスをもった、自己改良可能な分子機械だと言える」
「生命現象というのは、偶然の中から情報を汲み出す必然的なメカニズムを内臓している開放物質系の時間発展である」
「技術開発における偶然は、たんなるでたらめな出会い頭ではない。したがって、偶然に身を委ねつつ、しかしいかに偶然に弄ばれないようにするか、偶然の犠牲者となるのではなく、偶然をテコとして使える偶然の受益者にいかになるか。それが偶然の必然化のマネジメントの究極の課題である。」
「技術というものは、偶然のきっかけから有意な情報を選び出す必然的なプロセスを背後にもった、自己改良可能な知識体系である。」
「技術開発、あるいは技術の進化とは、偶然の中から情報を汲み出す必然的なメカニズムを内臓している、技術システムという開放知識系の経時的発展である。」

目次
1部 筋のいい技術を育てる
 1章 筋のいいテーマを嗅ぎ分ける
 2章 偶然を必然が捕まえる
 3章 技術が自走できうる組織
2部 市場への出口を作る
 4章 顧客インの技術アウト
 5章 外なる障壁、内なる抵抗
 6章 死の谷とダーウィンの海を活かす組織
3部 社会を動かす
 7章 コンセプトドリブンイノベーション
 8章 ビジネスモデルドリブンイノベーション
 9章 デザインドリブンイノベーション
4部 イノベーションの発生メカニズム
 10章 イノベーションの不均衡ダイナミズム
 11章 組織は蓄積し、市場は利用する
 12章 アメリカ型イノベーションの幻想
 13章 イノベーターたち

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ イノベーションを興す / 伊丹敬之

関連エントリはこちらから。
 →イノベーションの神話/スコット・バークン
 →イノベーション・マネジメント入門

投稿者 Jazz Blogger T : 23:42 | トラックバック

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