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ブライアン・イーノ&ハロルド・バッド/アンビエント2

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2010年05月27日

 Harold Budd & Brian Eno/Ambient 2: Harold Budd & Brian Eno/Ambient 2: The Plateaux of Mirror

 久しぶりの更新です。ブライアン・イーノとハロルド・バッドのアルバム。現代環境音楽の先駆的名作でしょう。これぞ癒し系。繰り返し聞くほどに耳に馴染んでくる素敵な音楽。iPodに入れて毎日のように聞いています。

 押し付けられる何がしかの音、騒音、流行りの音楽、テレビや宣伝音であったり、電車や飛行機の中での大騒音、都会に住む我々現代人は、無視できぬ音どもに囲まれて生活しています。iPodを聞く行為というのはもしやそれら雑音から自らを守るために止むに止まれぬ行為であるのかもしれません。虫や鳥の声、川のせせらぎ、風のささやきなど自然の音を音楽として風情を感じた古人のセンスが自分たちの中にもあるのでしょう。

 イーノの音楽は静寂の中に寡黙にゆっくりと静かに語ります。詩的です。決して多くを語らず哲学的で朴訥です。単純なメロディやモチーフが繰り返し語られます。いつも静かにマイペースでいつものところに佇んでいます。私は時にそのイーノのいる場所に立ち寄ってみたくなるのです。そこには優しくて包み込んでくれるような安らぎがあるのです。麻薬的というか不思議な吸引力があります。

 ブライアン・イーノのことはいずれじっくりと書いておくべきと思っていました。学生の頃からずっと気になる存在なのでした。最近またとみにその魅力が増してきたように思われます。家具の音楽とかいってエリック・サティがこの種の環境音楽の先駆者とすれば、イーノは現代における先導者でしょう。アンビエント・ミュージックという新しい概念の音楽を創出し、コンポーザーとしてだけでなく、プロデューサーとして活躍しています。

 イーノによれば、「アンビエンス」ambienceとは音楽が作り出す環境を意味し、音楽が置かれる環境environmentとは区別されると。アンビエント・ミュージックは興味深いと同時に無視できるものでなければならない。また、アンビエンスの機会、それは雰囲気atmosphereであり、あるいは人をとりまいている影響力である。いいかえれば、周囲の空気に付与された色彩tintであると。

 思えばイーノとの出会いは学生の頃、大学の学祭で部活でカフェのようなものを開きイーノとロバート・フリップの共作「No Pussy Footing」をずっと流し続けたのでした。その不可思議だけど魅惑の音楽に感銘を受けました。ある先輩が選んだBGMでしたが、そのセンスに脱帽しました。その先輩は美学専攻でロックに造詣深くいろいろ影響を受けました。フリップとの共作では「Evening Star」も印象的。いずれもイーノによって作り出されるリズムやアルペジオからなる曲調の上を、フリップが自由に繰り出すインプロビゼーション・イディオムとその特異なデイストーションされたギターサウンドが魅力ですね。

 本作も共作です。イーノは単独作品より共作の方が魅力的な作品が多いように思われます。「Another Green World」は単独作品として世評高いようですが、確かにその斬新さは凄いとしても楽しむための音楽としては少し物足りなく感じられます。共作ではイーノは相手のパーフォ-マンスをいかに引き出し魅力ある音楽に仕立てるか、指揮者やミキサー、そしてプロデュ-サーを兼務しているような印象です。あまり関係ないですが、ウィンドウズ立ち上げ時の短いスタート音の作者としても知られていますね。イーノはWindows95、ロバート・フリップがVistaとのこと。

 個人的な話ですが、最近、温泉やスパに行く機会が増えています。そうした施設でたまに音楽が静かに鳴っていることがありますね。刺激ないけれど邪魔にもならない、癒しの空間に相応しい音楽、まさにアンビエント・ミュージックです。環境音楽やヒーリング・ミュージックという範疇のものもあるような気がします。本作のアンビエント・シリーズがそうした音楽の最初の走りなのだと思われます。最初の作品は「Music For Airports」ということで空港で流す音楽を意図したもののようですが、本作「The Plateaux of Mirror」邦題「鏡面界」ということで、Plateaux は仏語で合わせシンバルの意なので、鏡の合わせシンバルという意になりますね。鏡でできたシンバルということでしょうから、音が合わせ鏡の中で永く響き渡るようなイメージになりますがいかがでしょう。

 日向敏文のピアノ音楽にも近いものがあります。ゆったりと刻まれるリズム、素朴だけど魅力的なメロディとピアノの美音。イーノの音はリバーブなどの効果を巧みに駆使して、さらに意味ありげな美音に仕上げています。空間に放たれた一音一音は前の音、次の音と次々に重なり合って立体的な音宇宙を形造ります。静かに繰り返されるモチーフが音宇宙の空間的な広がりを感じさせ、何度も繰り返されることである恍惚境に誘(いざな)われるのです。それがまさに癒しというものです。

 前10曲。前半4曲と8、10曲目、特に4、8、10曲目が好み。いずれも聞くたびに新しい魅力を感じさせられます。単純なようでいて奥深い音楽。時に崇高なもの、時にエロティシズムを感じさせる不思議な音楽です。自分も真似してこんな音楽を作ってみたいと思わされます。すぐにでも手が届きそうに思えるのですね。そんなはずないのですがね。でも、Reasonという音楽作成ソフトをある縁あってつい最近入手したときその可能性を感じたりしました。この話はまたいつか別の機会にしたいと思います。

詳しくはアマゾンでどうぞ。→ Harold Budd & Brian Eno/Ambient 2: The Plateaux of Mirror

投稿者 Jazz Blogger T : 22:00 | トラックバック

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