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イノベーション・マネジメント入門

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2005年02月09日

inovation management.jpgイノベーション・マネジメント入門
一橋大学イノベーション研究センター (編集)

日本経済新聞社(2001/12)

 企業で働く理系サラリーマンですので、仕事柄、この種の書物を読む機会が最近増えています。思うに、ノーベル賞受賞者の田中耕一さん(島津製作所)やLED開発で有名な中村修一さん(カリフォルニア大教授、元日亜化学勤務)ら、企業の研究者の中にもピカイチの才能が存在するという事実がこのところ明らかにされてきています。恐らくはこれらの快挙は例外的なこととも思われますが、むしろ氷山の一角であろうと私は解釈しております。

 企業活動において新製品開発の占める比重はこのところ大きくなるばかりです。優良企業となるためには新製品開発力が鍵を握っています。本書はそうした研究開発に基づくイノベーションをいかに生み出すかのマネジメント手法について総論的に書かれた良書です。

 特に、8章に人材に関するまとまった論文が示されています。研究はヒトと言われるように、大型の成果は間違いなく研究者の質に依存します。この章には創造的な研究者に関するパーソナリティや思考方法について一つの見解が示されています。こうした論文は稀少のため貴重に思われますのでここにご紹介します。


第8章 創造的技術者の論理とパーソナリティ (宮原諒二、一橋大学教授)

・多くのイノベーションは技術革新に基づく
・その技術革新の発端にはたいてい特定できる個人が存在する。個人の革新的な発想がカギを握っている
・彼らは独創的な技術の創造に際してどのような論理を用いているか? 
・彼らはどのようなパーソナリティの持ち主なのか? 
・それらを技術開発にどのように生かしたらよいのか?

1.創造的技術者

・新しい技術が技術革新として成立するには、「個人」、「環境」、「時間」の3つの要因が必要
・技術革新の芽は「技術そのものへの没頭から生まれ、芸術的手腕や職人的熟練の感覚、物事をうまく調和させる感覚が、
その没頭と結びつくことによって生ずる」と創造的技術者は考えている
・創造的技術者はビジネスの実務家というよりむしろ芸術家のセンスに近い

2.創造的技術者の論理とは

①創造の発端
・技術開発の現場では個人のアイデアやひらめきをもとに多くの実験が行われ、新技術創出のための仮説が次第に形成されていく
・実験とは自ら作った仮説を検証するために行うものである
・創造的技術者は、それまでの知識をもとに、まず最初に混沌とした状況を解決する特定の要因を思いつき、
それに従って少数のスマートな実験をし、仮説と実験を繰り返し、短時間でよい研究成果をあげる
・創造的技術者はなぜスマートな実験を行ったのかを"論理的"に説明できない

②アブダクション
・アブダクションという思考法による仮説形成が発見や発明の重要な発端になる
・アブダクションとは「演繹」「帰納」とは異なる思考法で、結論として説明しうるような仮説を構想し提起する推論
・具体的には、「驚くべきCが観測される」→「しかし、もし仮説Aが真であるとするならば、事実Cは起きるべくして起きる事実である」
→「したがって、仮説Aは真であると考える理由がある」というもので、仮説Aはあくまでも事実Cを説明するためのひとつの候補である

③3つの論理
・演繹的推論(deduction) 仮説→事例→結果
・帰納的推論(induction) 事例→結果→仮説
・アブダクション(abduction) 結果→仮説→事例
・演繹的推論、帰納的推論、アブダクションの3つはそれぞれスタートを「仮説」におくか、個々の「事例」におくか、「結果」におくかにより推論の形式が異なってくるに過ぎない
・アブダクションによる推論で得られた仮説は主観的なものであり、第三者にはわかりにくい暗黙知
・創造的な営みにはこのような飛躍が大きく不安定な推論が通常それと気づかれずに用いられている

3.創造的技術者のパーソナリティとは

①創造的技術者の行動
・創造的技術者は主流でなく辺境に存在することが多く、従来の常識の擁護者でなく主流からは非常識に見える
・創造的な人はアブダクションによる推論を行う(すなわち論理の飛躍が大きい)ので、従来の演繹的推論や帰納的推論を信奉する人
にとって論理的に理解しがたく、非常識に見られる。常識的な環境には生息しにくい状況が発生する

②パーソナリティの理解
・TA分析(交流分析)では、「親」、「大人」、「子供」の3つの自我状態を各人がどのような割合で有するかでパーソナリティを理解しようとする
・より詳しくは、「支配的な親」、「養育的な親」、「理性的な大人」、「自由な子供」、「順応した子供」の5つ
・創造的な研究者は一般的に「理性的な大人」と「自由な子供」が高く、特に「自由な子供」が高いことが知られている

③パーソナリティと論理の関係
・パーソナリティによって得意とする論理が異なる
→ 演繹的推論 「親」 大前提(仮説)をもとに演繹的に論理展開 (例)あるべき姿の話
→ 帰納的推論 「大人」周囲の種々の事実をもとに帰納的に論理を展開 (例)現実的な話
→ アブダクション 「子供」他の価値観や周囲の状況にとらわれずに主観的な飛躍した推論を行う (例)夢のような話

4.創造のプロセスとは

①DNA2重らせんモデル発見の経緯
・周囲に存在した実験事実と各自の知識によりDNAモデルを作成(アブダクションによる仮説の形成)
・DNAモデルを模型で表現(演繹的推論による仮説の一般化)
・最終の仮説に至る途中の予備的な仮説は帰納的推論によって検証され、最終的な本物の仮説に達した(帰納的推論による仮説の検証)

②創造のプロセス
・C.S.バース「発見における仮説の三段階」に基づくと創造のプロセスは3つのステップより行われる
第1ステップ アブダクションによる仮説の形成
第2ステップ 演繹的推論による仮説の一般化
第3ステップ 帰納的推論による仮説の検証

③創造のプロセスと技術開発組織
・企業における技術開発の場は大きく2つに分けることができる
→ 「技術創出の場」 発明とか発見に関わる 
→ 「商品開発の場」 革新的技術やその他の技術を適用して商品に仕上げる 
・技術創出の場  ここでは「イノベーションとは従来の常識を変革し、新しい常識を作り上げること
→ HOWよりもWHAT、定量的より定性的
→ 「アブダクションによる仮説の形成」と「演繹的推論による仮説の一般化」のステップが重要
→ 「自由な子供」と「理性的な大人」の共同体制が必要
→ 技術開発部門では通常、「理性的な大人」が多く、「自由な子供」は少ない
→ 「自由な子供」を選び資質を吟味して、「技術創出の場」に重点的に配置する
→ 創造の「場」での暗黙知を共有する仕組みを作り、「場」を理解できるマネージャーを配置する
・商品開発の場  ここでは「イノベーションとは経済成果をもたらす革新」
→ WHATよりHOW、定性的より定量的
→ 「演繹的推論による仮説の一般化」と「帰納的推論による仮説の検証」のステップが重要
→ 「理性的な大人」と「批判的な親」とが必要
→ 「自由な子供」は不適

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