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ニコレッタ・セーケ/ア・ソング・フォー・ユー

JAZZ Vocal

2009年01月24日

Nikoletta Szoke/A Song For You

 今日は思わず衝動買いした新作CDのご紹介をしましょう。実は新作ジャズはめったに買わないのですが、あの澤野工房からの初めてのヴォーカル盤であり、ピアノがロバート・ラカトシュ、それに試聴したラカトシュがやはり期待通り素晴らしかったからです。パーソネルは、ニコレッタ・セーケ (vo), ロバート・ラカトシュ(p), トーマス・スタベノウ(b), クラウス・ヴァイス(ds)。2008年10月ミュンヘン録音。澤野工房AS085。

 ロバート・ラカトシュのことは昨年10月に彼の澤野2枚目アルバム『Never Let Me Go』のことを書いた頃より、iPodで日常的に聞き続けていまして、そのクールなピアノ・センスにずっと痺れっぱなしなのですね。こうした歌伴のピアノではさぞやツボを押えた好サポートをするに違いないと確信めいたものがありました。

 期待に違わず、ラカトシュのピリリと光るピアノが素晴らしいアクセントになっていますね。いずれの曲でも短いソロをとりますが、その粋でハイセンスな演奏に大満足させられます。ほんとに愛らしい歌ものでのラカトシュのピアノは素敵すぎます。それに、歌声の後ろでさえ、さりげなく紡がれる美しいメロディに聴き入っていますと、これはもうヴォーカルを脇役にしてしまうような存在感を感じずにおれません。

 ところで、ジャケットのニコレッタ・セーケ嬢、美しいですね。古きヨーロッパ映画に出てくるような美形です。ラカトシュと同じハンガリー出身でまだ25才?(1983年生れらしい)の新人です。YouTubeに何本か映像がありましたので私自身が繰り返し観たいと思う2本をここにアップしておきましょう。2006年モントリュー・ジャズ祭からラカトシュのピアノ・トリオをバックにした Invitation と Moon and Sand の2本。特に後者でのニコレッタの新鮮なスキャットとラカトシュらしい粘っこく知的なピアノがいい感じです。

 ニコレッタ嬢の歌は最初は声量なく声質も平凡で拍子抜けしますが、ジャズ・スピリットになかなかのものがある上、曲の解釈にも独特のものがあるように思えます。恐らくは聞くほどに味の出てくる実力派タイプですね。単なるカワイコちゃん歌姫でないことは確かで、ジャケット写真はちょっと作られすぎていて本来の彼女とは美点も含めて遠い気がします。

 CDに収められた曲についてもコメントをしておきましょう。まず、選曲がなかなか渋いことと、澤野らしく音質がやはり最高なことを挙げておかねばなりません。個人的には、ジョン・コルトレーンの哀愁ある演奏でお馴染みの5曲目 Everytime We Say Goodbye と多くの歌手が手がけている13曲目 The Look of Love がともに静溢な雰囲気で好みです。特に後者の反ブルースのような詩的な解釈は斬新です。加えて、ラカトシュのピアノはいずれも一聴に値する極めて美しいもの。

 2曲目 Waltz For Debby はモニカ・ゼタールンドとビル・エヴァンスの21世紀版という感じですね。また、ロレツ・アレキサンドリアの名唱が印象深い6曲目 I've Grown Accustomed To His Face が入っていたり、レオン・ラッセルの名曲でカーペンターズも歌ったCD表題の1やビリー・ジョエルの10なども新鮮です。8曲目 Almost Like Being In Love では彼女が得意とするスキャットが聞かれますが、そのリズミカルで器楽的な声質が好ましく思えます。

 ラカトシュの実力についてはもう繰り返しませんが、歌姫ニコレッタ・セーケについてはアン・バートンのような感情移入型の歌手として活躍してくれることを期待しています。きっとこれからも歌唱力よりも歌の巧みさや洗練されたジャズ・センスで活躍してゆくことでしょう。本作はラカトシュ美学とのコラボが見事に実を結んでいると思います。知的かつクール、抑制が効いていて感情に流されない、それでいてきらめき輝く美と確かな情念とを感じさせる内容。繰り返し聞くうちにその虜になってゆく、そういう音楽です。

 追伸。澤野工房のHPから、本作のプロデューサー兼ドラム担当のクラウス・ヴァイスさんが昨年12月に逝去されていたことを知りました。享年66歳。ご冥福をお祈りします。

1 A Song For You
2 Waltz For Debby
3 If I Were A Bell
4 Time After Time
5 Everytime We Say Goodbye
6 I've Grown Accustomed To His Face
7 Summer Night
8 Almost Like Being In Love
9 I Didn't Know What Time It Was
10 Just The Way You Are
11 Nobody Else But Me
12 Spring Can Really Hang You Up The Most
13 The Look Of Love

Nikoletta Szoke (vo), Robert Lakatos (p), Thomas Stabenow (b), Klaus Weiss (ds). 
Recorded at Pirouet Studio, Munich, on Oct.9&10th, 2008.

澤野商会で試聴可能です。→Nikoletta Szoke/A Song For You

購入はHMVでどうぞ。→ Nikoletta Szoke/A Song For You

投稿者 Jazz Blogger T : 16:07 | コメント | トラックバック

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